「人道研究ジャーナル」創刊号

「人道研究ジャーナル」創刊号 page 109/216

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Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012ゲルスなど)。5)その他のヒューマニズム中世的ヒューマニズムやキリスト教的ヒューマニズム。これらのヒューマニズムとは異なり、赤十字などの人道機関が理念的基盤....

Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012ゲルスなど)。5)その他のヒューマニズム中世的ヒューマニズムやキリスト教的ヒューマニズム。これらのヒューマニズムとは異なり、赤十字などの人道機関が理念的基盤に据える人道主義は「ヒューマニタリアニズム(humanitarianism)としての人道主義」といえるだろう。同事典の分類にはこれが含まれていないが、「日本ではヒューマニズムは、19世紀後半以降の近代思想における<人道主義humanitarianism>に近いものとしてうけとられている」との言及があり、代表的人物として、トルストイ、ロラン、シュバイツアーを挙げている。勿論、これらの人物の中にアンリ・デュナンを加えるべきだろう。現代においては、19世紀後半以降、国際化とともに普遍的な規範性を高めていった人間愛または博愛を意味する「ヒューマニタリアニズムとしての人道主義」という項目をヒューマニズムの諸形態の一つに加えるべきであろう。それは、ジャン・ピクテが指摘するように、「赤十字の本質的原則を表現するにはヒューマニティの語が相応しいが、純粋に論理的に言えば、ヒューマニタリアニズムという言葉の方がより適切である」2からであり、今日、ヒューマニタリアニズムの語は、人道支援や人道問題を表現する言葉として広く国際社会で用いられているからである。そこでまずヒューマニズムやヒューマニタリアニズムの語源であるヒューマニティの語の起源を辿ることから人道の本質について考えてみたい。1.言葉としての“ヒューマニティ”の起源西欧語としてのヒューマニティ(humanity)の語の起源は、紀元前1世紀の共和制ローマ時代の哲学者キケロ(Marcus Tullius Cicero,B.C.106-43)が『弁論家論(De Oratore)』(B.C.55)の中で初めて使用した造語「フマニタス(humanitas)」に由来するとされる3。キケロは、この語にギリシャ語のphilanthoropia(フィランソロピア:友愛)やpaideia(パイデイア:教育、教養)の意を混めて使用したとされ4、『キケロー選集』によれば、この語は人間や人類、男、奴隷などを意味するホモ(homo)の形容詞フマヌス(humanus)を元に考案され、キケロは「人間らしさ」「人間的な」「人間性」などを意味して使用したとされる5。フマニタスの概念を教養、人間形成、人間らしい生き方と解する見解は広く見られ、6例えば、マルティン・ハイデガーは『ヒューマニズムについて(On humanity)』の中で、フマニタスは、古代ローマ人の徳(ヴィルツス)とギリシャ的な教養(パイデイア)を身につけた理想的な人間をローマ人がフマニタスと訳したのが始まりとしている。それは洗練された教養を身につけた「人間的な人間(homo humanus)」を意味し、「聞きなれない言葉を話す人」を意味する「野蛮な人間(homo barbados)」と対比的に用いられた。ハイデガーは、あらゆるヒューマニズムに普遍的な本質は、人間を「理性的動物(animal rationale)」と見なすことであり、人間のこの最も普遍的な本質は自明であるという認識を前提にしているという7。一方、ハイデガーの恋人でもあったハンナ・アーレントは、フマニタスは「人間(anthoropos)」と「愛する(philos)」の合成語であるフィランソロポス(philanthropos)の概念がローマ社会で変容したものだとし、この語は多様な民族、種族、血統に属する人々がローマ市民権を与えられ、教養あるローマ人と交流するようになったローマ的な世界観を背景に生まれたと指摘する8。つま人道研究ジャーナルVol. 1, 2012107