「人道研究ジャーナル」創刊号

「人道研究ジャーナル」創刊号 page 118/216

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Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012はじめにアダム・ロバーツは、「人道的介入とは、単一または複数の国家が、被介入国の住民の大規模な被災と死を回避する目的で、被介入国の同意のない武力行使による強....

Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012はじめにアダム・ロバーツは、「人道的介入とは、単一または複数の国家が、被介入国の住民の大規模な被災と死を回避する目的で、被介入国の同意のない武力行使による強制行動である」と定義している1。つまり、人道的介入の主要な目的とは、国内紛争に伴う人道的被害を軽減することである。しかし、1990年代の人道的介入は、その目的を十分に達成し切れたとは言い難い結果に終わっている。例えば、ソマリアでは、介入国の軍事力への過剰な依存が、紛争当事者との戦闘に発展し、一般市民にも犠牲者を出した。ボスニア紛争では、国連保護軍(UNPROFOR)が「中立の文化」を克服できなかったことと、一般市民を保護するのに必要な権限や資源が与えられなかったことにより、民族浄化を阻止できなかった2。ルワンダでは、国際社会の介入に対する政治的意思の欠如と、国連ルワンダ支援団(UNAMIR)の権限と資源の欠如が、大量虐殺の悲劇の拡大を招いた。さらに、コソボ紛争では、北大西洋条約機構(NATO)が安保理決議を迂回する形でユーゴスラビア連邦共和国への空爆を実施したために、その軍事介入の正当性が問われることとなった。このように、1990年代以降、紛争の危機に直面している文民をいかに保護しうるかが大きな安全保障上の論争となったが、1990年代に展開された多くの人道的介入は、必ずしも文民を人道危機から保護することに成功したわけではなかった。2000年代前半、人道保護目的の介入をめぐる規範形成に、大きな前進があった。2000年9月、カナダに設立された「主権と介入に関する独立国際委員会」(International Commission onIntervention and State Sovereignty: ICISS)は、2001年12月に「保護する責任」という新しい概念を提案した。同名の報告書(以下、ICISS報告書)においては、ICISSは、人道保護目的の軍事介入の正当化要件、介入を効果的に運用するために遵守すべき「作戦方針」(OperationalPrinciple)、介入に必要な政治的意思の喚起の方策等を提示し、国際社会に人道危機に対応しうる新しい規範を形成するよう促した。国際連合(国連)やカナダをはじめとする「保護する責任」の支持国の努力により、「保護する責任」の概念の一部は、2005年9月に開催された国連総会首脳会合の成果文書の中に反映された。例えば、各国の指導者は、大量虐殺、戦争犯罪、民族浄化、人道に対する罪の四つの残虐行為を、軍事介入の「正当な理由」とすることで合意し、2006年4月の安全保障理事会決議(決議)1674においてその成果文書の内容が承認されることとなった。このように、国際社会は、国連憲章第7章に基づいて、これら四つの残虐行為から文民を保護するために、必要に応じて、武力行使を含めた強制措置を実行することが可能となった。本稿の目的は、「保護する責任」の軍事介入正当化要件の適用をめぐる課題を考察することである。第Ⅰ節では、ICISS報告書の公表から決議1674の可決までの経過を概観し、決議1674で承認された「保護する責任」の概念の特徴を明らかにする。その上で、第Ⅱ節では、2006年以降に「保護する責任」が発動されたサイクロンナルギス上陸後のミャンマー、南オセチア紛争、リビア内戦、シリアの騒乱等の国内紛争にどのように「保護する責任」の軍事介入正当化要件が適用されたのかを明らかにした上で、その適用上の課題を考察する。また、文民保護目的の軍事介入の安保理迂回措置の法的正当性についても言及する。116人道研究ジャーナルVol. 1, 2012