「人道研究ジャーナル」創刊号

「人道研究ジャーナル」創刊号 page 119/216

電子ブックを開く

このページは 「人道研究ジャーナル」創刊号 の電子ブックに掲載されている119ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012ⅠICISS報告書の特徴と課題1.ICISS報告書1990年代の人道的介入における失敗を繰り返さないために、カナダに設立されたICISSは、2001年12月に、ICISS報告書を公表した....

Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012ⅠICISS報告書の特徴と課題1.ICISS報告書1990年代の人道的介入における失敗を繰り返さないために、カナダに設立されたICISSは、2001年12月に、ICISS報告書を公表した。ICISS報告書は、文民の保護に関して、四つの提案を行っている3。一点目は、介入国の「介入する権利」から国家が文民を「保護する責任」への用語の変換である。1990年代の人道的介入をめぐる議論は、介入国の権利に焦点が当たり、被災者の保護という本来の目的を軽視してきた。ICISSは、この用語の変換によって、人道的介入の反論者にも受容できる新たな規範的素地の提供を試みている4。二点目は、主権概念の転換である。ICISS報告書では、国家主権とは自国民に対する無制限な権力行使を容認する概念ではなく、国家は自国民を保護する第一次責任を伴っていると記されている5。さらに、国家がその責任を果たす能力も意思もない場合、第二次責任は国際社会にあるとされる6。このパラダイムシフトにより、ICISSは、国家に自国民を保護するための能力開発を促す一方、国際社会も文民保護のために問題国家に介入する責任があるとし、介入に対する政治的意思の喚起を試みている。三つ目は、文民を保護するための「三つの責任」と「作戦方針」の導入である。軍事的強制措置にのみ焦点が当たる傾向にあった1990年代の人道的介入の議論の反省に立ち、ICISSは、「保護する責任」は、人道保護目的の軍事介入との関連性の深い「対応する責任」と、「予防する責任」、「再建する責任」の三つから構成される包括的概念であるとしている。その上で、それぞれの段階で、軍事的手段だけでなく、政治的・外交的手段、経済的手段、法的手段等の非軍事的手段の重要性にも言及している。また、「保護する責任」を果たすために、国際社会は、「作戦方針」に従い、平和活動に必要な資源や権限を付与することが重要であると指摘している7。最後に、ICISSは人道保護目的の軍事介入を正当化しうる六つの要件を提案した。ICISSは、ルワンダの大虐殺をめぐる国際社会による不作為を繰り返さないために、軍事介入の「正当な理由」を「大規模な人命損失」と「大規模な民族浄化」に設定することで、国際社会の軍事介入への政治的意思を喚起しようとした8。また、武力行使の濫用を防止するために、「正当な意図」、「最後の手段」、「比例的手段」、「合理的見通し」という四つの正当化要件の設定を促した9。最後に、ICISS報告書は、「正当な権威」に関して、軍事介入の正当性を承認する上で、最高の権威を有しているのは安保理であるとし、軍事介入は、原則として、国連憲章第7章の手続きに基づいて行われるべきであるとしている10。しかし、NATOによるコソボ空爆をめぐる安保理の機能不全を回避するために、ICISSは、常任理事国は拒否権の行使を慎むこと、「平和のための結集決議」のように安保理の承認がなくとも軍事介入が行えるような代替案の模索などを要求している11。2.国連総会首脳会合成果文書と安保理決議16742005年9月に開催された国連総会首脳会議で、世界の政治指導者は、「保護する責任」の基本概念に大筋で合意し、その合意内容が同会議成果文書第138、139項に示された。138.各々の国家は、大量殺戮、戦争犯罪、民族浄化及び人道に対する犯罪からその国の人々を保護する責任を負う。この責任は、適切かつ必要な手段を通じ、扇動を含むこ人道研究ジャーナルVol. 1, 2012117