「人道研究ジャーナル」創刊号

「人道研究ジャーナル」創刊号 page 123/216

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Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012使しなかった要因について分析する。(断っておくが、ここではリビアへの軍事介入が実際に文民の保護に寄与したかは分析対象ではない。)(1)リビア内戦2010年12月の....

Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012使しなかった要因について分析する。(断っておくが、ここではリビアへの軍事介入が実際に文民の保護に寄与したかは分析対象ではない。)(1)リビア内戦2010年12月のチュニジアの暴動で始まった「アラブの春」は、2011年初めにはエジプトやリビアにまで波及した。2011年1月中旬以降、リビアでは市民によるデモが発生し、リビア政府はそのデモに弾圧を加え始めた。それに対し、政府や軍からの造反者が設立した「暫定国家評議会」は武装組織を設立し政府の弾圧に対抗し、リビアは内戦状態に突入した。一方、国際社会では、リビア政府と反政府組織との武力紛争からリビア国民を保護するために、軍事介入を支持する動きが現れ始めた。1990年代、多くの国内紛争に人道的介入を行ってきた欧米諸国がリビアへの軍事介入に支持を表明したことは驚くに値しないが、重要なのはこれまで国家主権を盾に一貫して内政不干渉の立場を堅持してきたアラブ連盟(LAS)がリビア内戦に口先介入するだけでなく軍事介入に対しても支持を表明した点である。2011年2月22日、LASはリビア内戦の暴力が沈静化しない限り、リビアの加盟国としての地位を停止すると表明した23。翌2月23日にはアフリカ連合(AU)もリビア軍による市民への武力行使に対する非難決議を採択している24。こうした地域機関によるリビア非難決議に引き続き、2月26日、安保理は決議1970を承認し、リビア軍による市民への組織的攻撃は「人道に対する罪」に該当すると非難し、その攻撃の即時停止を要求した25。ところで決議1970が承認された2月26日の時点では、将来的に武力行使を含めたより強制的な決議が承認される可能性は低いと考えられていた。実際に、歴史的に国内紛争への軍事介入に否定的な立場を堅持してきた中国やロシアは、安保理におけるリビア内戦に関する審議においても同様の立場をとっていた。しかし、決議1970の承認後もリビア軍による市民への暴力は治まらず、軍事介入を求める国際的世論が強まっていた。3月7日、湾岸協力会議(GCC)は安保理に対し、リビア軍による攻撃から市民を保護するために「あらゆる必要な手段」を行使するよう要請する一方、翌8日にはイスラム諸国会議機構(OIC)は、リビア領内に飛行禁止区域を設けることを提案した26。さらに重要なことに、3月12日、LASは安保理に対し、飛行禁止区域の設定とリビア軍による攻撃から市民を保護するために「安全地域」の設定を要請した27。こうした地域機関からの要請に呼応する形で、3月17日、安保理は決議1973を承認(中国とロシアは棄権)し、リビア政府に即時停戦を要請するとともに、市民を保護するために「あらゆる必要な手段」を行使する用意のあることを表明した28。このように、リビア内戦をめぐる国際社会の動向を概観すると、LASやGCC等がリビア人民を保護する目的で、軍事介入を含めた「あらゆる必要な手段」の行使を支持したことにより、中国とロシアはリビア軍による大量殺戮が進行する最中に「非介入」の姿勢を貫徹することが困難となり、決議1973に拒否権を行使できなかったと考えられる。このことから、アレックス・ベラミーとポール・ウィリアムスが指摘するように、LASやGCC等の地域機関は安保理における審議事項の決定に大きな影響を与える「ゲートキーパー」としての役割を担ったといえよう29。(2)小括2006年の決議1674の承認以来、リビア内戦以外に、安保理が紛争当事国の同意を得ずに文民保人道研究ジャーナルVol. 1, 2012121