「人道研究ジャーナル」創刊号

「人道研究ジャーナル」創刊号 page 124/216

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Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012護目的の武力行使を承認した事例は存在しない。したがって、本稿の「拒否権を行使させない政治的環境」の分析には限界がある。リビア内戦の事例では、地域機関の果たす....

Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012護目的の武力行使を承認した事例は存在しない。したがって、本稿の「拒否権を行使させない政治的環境」の分析には限界がある。リビア内戦の事例では、地域機関の果たす役割の重要性を指摘した。しかし、例えば、現在進行中のシリア騒乱においては、地域機関が果たす役割を過大評価すべきではない。現在、安保理では緊迫するシリア情勢に関する審議が行われている。2012年2月4日、中国とロシアの拒否権行使により、シリア政府と反体制派の暴力の即時停止、アサド大統領の退陣等を要求するシリア批判決議が否決された。これまでのところ、両国のみならず欧米諸国やLAS加盟国もシリアへの軍事介入には慎重な姿勢を崩していない。国際社会がシリアへの軍事介入をためらう要因は、国際・国内双方のレベルから説明できる。国際レベルでは、本年、アメリカやフランスでは大統領選を控えているが、リーマンショックと欧州債務危機の影響で経済・財政事情の厳しい両国において、軍事介入に対する国民の理解を得るのが難しい状況にあり、中国やロシアはこのような欧米諸国の国内事情を熟知している。また、アラブ連盟は、仮にシリアに軍事介入を行えば、その後の権力の空白に乗じテロ集団が活動を活発化させること、シリアと友好関係にあるイランとの関係悪化は避けられず、一気に中東情勢が緊迫化すること等を懸念している30。一方で、国内レベルでは、シリアはリビアよりも強力な軍隊を保有しているため、諸外国が軍事介入するには大きなリスクを負う必要があることがあげられる。また、リビアの反政府勢力「暫定国家評議会」と違い、シリアの反政府勢力「シリア国家評議会」は海外在住のシリア人で構成されているため、国内的な支持基盤が脆弱なだけでなく、国際的な認知も低く、国際社会と「シリア国家評議会」との連携が十分取れていない点も軍事介入を困難にしている要因であると考えられる31。したがって、LASのような地域機関以外のアクターの動向も、常任理事国の行動(拒否権の行使)に影響を与える要因として考えられる。しかし、決議1973が承認に至るまでの過程で地域機関が担った役割の重要性は軽視すべきではない。今後、文民が大量殺戮の危機に直面した際、常任理事国に「拒否権を行使させない政治的環境」を形成するために、地域機関を含めた国際政治のアクターが「ゲートキーパー」として、どのような役割を果たしていくのか注目される。3.安保理迂回措置文民保護目的の軍事介入の承認をめぐって安保理が分裂した場合の二つ目の方策として、ICISSは安保理迂回措置を検討し、ICISS報告書では「平和のための結集決議」の活用を提唱している。コソボ紛争への介入をめぐって米英仏と中露の対立が先鋭化していたとき、実際にカナダは「平和のための結集決議」によって、安保理の承認を得ずにコソボへの軍事介入を提案した経緯がある(しかし、常任理事国は、同決議による軍事介入を認めれば、安保理の権威が失墜することを恐れ、カナダの提案を拒否した)。ナイジェル・ホワイトは、安保理仮手続規則第30と「平和のための結集決議」を併用すれば、たとえ安保理決議を迂回したとしても、軍事介入の正当性を高めることができると主張している。安保理仮手続規則30は、安保理議長の裁定を覆すには9理事国以上の賛成を必要とする規定である(この場合、5常任理事国には拒否権が認められない)。仮に9カ国以上の賛成が得られれば、動議は国連総会で議論されることが可能となる。一方、「平和のための結集決議」は、安保理が国際の平和と安全を維持に係る責任を果たせない場合、特別緊急国連総会において加盟国の3分の2122人道研究ジャーナルVol. 1, 2012