「人道研究ジャーナル」創刊号

「人道研究ジャーナル」創刊号 page 125/216

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Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012以上の賛成が得られれば、平和と安全のための措置について勧告することができる制度である。つまり安保理仮手続規則第30で9理事国以上の賛成を得るとともに、特別緊急....

Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012以上の賛成が得られれば、平和と安全のための措置について勧告することができる制度である。つまり安保理仮手続規則第30で9理事国以上の賛成を得るとともに、特別緊急国連総会においても「平和のための結集決議」が並行して採択されれば、軍事介入の正当性の強固な基盤を形成することができるというのである。しかし、国連憲章第10条に従えば、「平和のための結集決議」は加盟国に集団的行動を採るよう「要請」できるのみで、武力行使を「承認」出来るだけの権限を与えられてはいない。また、国際司法裁判所は、国連憲章第12条1項の規定を根拠に、同決議による武力行使の合法化には否定的な立場をとっている33。したがって、「平和のための結集決議」による安保理の授権のない軍事介入は、合法と見なすことは出来ないと考えるべきである。また、国連憲章第2条4項にもあるように、こうした迂回措置は、武力行使の禁止を前提とした現代の国際秩序を揺るがすものでもあり、たとえ文民保護が目的だとしても、安保理迂回措置は慎重に検討されるべきであろう。おわりに本稿では、「保護する責任」の軍事介入正当化要件適用をめぐる課題を考察した。ラメシュ・タクールは、「保護する責任」に期待される機能として、1大量殺戮の危機に際し、国際社会による介入の見込みを高める、2文民保護を名目とした軍事介入の濫用を防止する、3安保理による授権のない軍事介入を可能にする安保理迂回措置を設定すること等をあげている34。2006年の決議1674承認後、リビア内戦、シリア騒乱等、いくつかの国内紛争に際し、安保理を含む国際社会は「保護する責任」に言及し大量殺戮から文民を保護しようとしてきたという点で、「保護する責任」は国際社会による介入の見込みを高める一定の機能を果たしたといえよう。また、国際社会によるリビア内戦への軍事介入の考察では、国際社会による介入の見込みを高める上で、常任理事国に「拒否権を行使させない政治的環境」を形成することが重要であることを指摘した。また同事例の考察を通し、LASやGCC等の地域機関が、安保理における審議事項の決定に大きな影響を与えた。これは、文民が大量殺戮の危機に直面した際、常任理事国に「拒否権を行使させない政治的環境」を形成するために、地域機関を含めた国際政治のアクターが重要な役割を果たす可能性のあることを示唆している。だが、リビア内戦は紛争当事国の同意を得ず「保護する責任」の文脈で軍事的強制措置を採った初めての事例のため、地域機関が果たす役割を明らかにするためには、更なる事例研究が必要である。第二の機能については、本稿で取りあげたサイクロンナルギスや南オセチア紛争の事例が明示するように、依然として「保護する責任」の軍事介入正当化要件は濫用される恐れのあることが明らかになった。今後、国際社会には、同要件の濫用を防止するために、解釈上のコンセンサスを形成していかなければならないという課題が残されている。第三の機能、つまり安保理迂回措置については、これまで「平和のための結集決議」の活用の有効性を指摘する議論が存在したが、国際法上、合法であるかは疑わしいことを指摘した。このように、「保護する責任」は文民を大量虐殺から保護するための新しい規範として国際的に認知されつつあるが、まだ多くの課題を抱えている。国連事務総長潘基文は、国際社会に「保護する責任」の履行を求めてきた。だが、この新しい規範を実際に運用化するためには、既述した各課題を克服する必要がある。また、本稿では論じることはなかったが、そもそも文民保護目的人道研究ジャーナルVol. 1, 2012123