「人道研究ジャーナル」創刊号

「人道研究ジャーナル」創刊号 page 38/216

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Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012ICRC事業局長へのインタビューICRCのピエール・クレヘンビュール事業局長が2012年2月中旬に来日された。この機会に、「人道研究ジャーナル」としてインタビューする機....

Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012ICRC事業局長へのインタビューICRCのピエール・クレヘンビュール事業局長が2012年2月中旬に来日された。この機会に、「人道研究ジャーナル」としてインタビューする機会を得た。(インタビュー協力:ICRC駐日事務所)Q. 1949年ジュネーブ諸条約の制定から60数年、1977年の2つの追加議定書からでも35年が経ちます。ICRCの近年の活動現場において、現行の国際人道法の枠組み外、すなわち、国際人道法が適用されない条約状況が多々あると思います。これに対処するために現在どのようなことをお考えですか?条約の見直し作業などの予定はありますか?A. 1949年のジュネーブ四条約は、典型的な国家間の戦争、すなわち国際武力紛争を想定しているもので、捕虜(第3条約)や、占領時(第4条約)についてなど多岐に渡って細かい規定が設けられています。例えば、昨年のリビアにおける紛争は、NATOの介入で、一部、国際紛争と見なされたため、ジュネーブ諸条約が適用となり、それに基づく様々なルールが有効となったわけです。しかし、現在、このような国際紛争は稀です。昨年では、今、お話ししたリビアでの紛争があったのみで、後は第4条約が適用するパレスチナ自治区の問題があり、また、米国と有志連合軍がイラクを侵攻した際にもジュネーブ条約が適用されました。しかし、今日ICRCが活動しているほとんどの国では、そこで起きている紛争が内戦、つまり非国際的な武力紛争であるため、大変「控えめ」で規定の数も少ないです。適応されるものは、ジュネーブ諸条約共通第3条か、もしくは追加議定書です。もちろん、これらも重要で有用ですが、ICRCとしては、非国際的な武力紛争についても、より詳細で、厳格なルールが適用されることを望んでいます。これに関連して、昨年11月にジュネーブで開催された赤十字・赤新月国際会議では、特に非国際的な武力紛争に関わる国際人道法の新たな条約作り、もしくは詳細明記の追加などの可能性を探るべく提案をしました。例えばその中には、拘束者の取り扱いや補償全般に関する問題が含まれています。この国際会議でICRCは、これらの問題をさらに追求し、各国と協力しながら新たな条約作りを進めるために必要な具体案を示すという任務を与えられました。法律は、未来を予期してそれを反映するものではなく、現実、すなわち何か特定の状況があって、それに合わせて整備されるものです。国際人道法についても同様で、1949年、そして、1977年に交渉が行われました。近年では、対人地雷禁止条約(オタワ条約)の制定や地雷禁止国際キャンーペンなどがあります。これも、新しい国際人道法制定の一例ですが、その他の分野でも国際人道法を強化出来ないか可能性を探っていきます。一点、明確にしなければならないのは、我々はジュネーブ諸条約を変更するということは考えていません。第2次世界大戦という「大災害」を経験して、やっと制定された諸条約です。これらを再検討し、変更しようとすれば、失うものが多いでしょう。ですから、我々は変更ではなく、1977年の追加議定書のように、現行の諸条約への項目追加を目指していきます。そして次の国際会議までの4年間で、ICRCは各国国家と協議を重ねて行きます。なぜならICRCは、法整備の提案は出来ますが、法律を成立することはできません。国家間で交渉し、国際法の成立、制定を実現できるのは、国家のみだからです。36人道研究ジャーナルVol. 1, 2012