「人道研究ジャーナル」創刊号

「人道研究ジャーナル」創刊号 page 67/216

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Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012数十万人が避難所での生活を強いられていた当初では、心のケアの訓練を受けた看護師たちが、被災者に対して、親族、友人、隣人、自宅、将来の見通しなどを失ったことの....

Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012数十万人が避難所での生活を強いられていた当初では、心のケアの訓練を受けた看護師たちが、被災者に対して、親族、友人、隣人、自宅、将来の見通しなどを失ったことの精神的影響に対処するための支援を行った。救援から復興の初期段階へと状況が移行するにつれて、人々は仮設住宅や賃貸アパートに住むことができるようになった。所持品を持たない者も多く、日赤は全世界からの寄付により、入居した12万8000世帯に家庭電化製品を提供した。弱者への対策として、養護老人ホームに特別なベッドと車両を提供した。約170校に、スクールバス、社会サービス用に寄贈された車両、保健室やプレイルームの用品など、様々な新しい備品が贈られた。長期的な復旧計画の一環として、日赤は、被災した病院や診療所の代わりとなる医療施設の恒久的および一時的再建を行っている。現在診療を行っている診療所はほとんどがプレハブで、収容力の限界を超えて運用されており、恒久的な病院は、完成するまでに何年もかかる。生存者への支援の観点から、日赤は、多くの仮設住宅において孤立、引きこもり、絶望状態に陥っている高齢者に対する心のケアなどのニーズへの対応に重点的に取り組んでいる。想定外を想定することの重要性について東北での大災害は、事前の想定をはるかに超えるものであった。第二次世界大戦後の日本で、これまでに一度の災害でこれほど多くの人命が失われたことはなく、国は、従来の地震・津波対策について途方もなく大きな課題を突き付けられた。日本の地震対策は非常に進んでおり、世界屈指であるが、2011年の地震と津波は、事前の公式なハザード予測とは桁違いの規模であった。地震動の大きさ、津波の高さと影響範囲、被災地の広さは、いずれも予想をはるかに上回った。その理由は、財政的な制約を重視した、技術的な目的のために予測が行われていたことにあったと考えられる。このような予測に基づくリスクの推定により、人々は海岸防護施設を過度に信頼し、誤った安心感を抱いたとさえ言える。これにより住民の避難が遅れたという可能性も十分に考えられる。もし、数段階の大規模災害のシナリオを用いた個別的・現実的なリスク分析に基づいて緊急対応計画が立てられていたとしたら、経済的な制約は重要でなくなるため、計画を活用できたと思われ、救援段階での混乱の多くは、回避できた可能性が高い。そのため、考え得る最大規模の地震と津波といった、最悪の複合災害による複合的な影響をも含めた、複数の損害シナリオを検討する必要がある。今回の災害は日中に発生したが、もし別の時間帯や別の季節に起こっていたとしたら、あるいは津波の被災地域がもっと広かったとしたら、人道被害は、さらに拡大していた可能性がある。原子力災害の影響についても、風向きが良かったということにより、起こりえる最悪の事態に比べれば限定されていたと言える。地震と津波に襲われた海岸は、世界で最も原子炉が密集している地域であり、そのすべてが津波または地震による損害を受けたが、緊急バックアップシステムの一部は生き残り、原子炉を停止させることができた。高所得国と低所得国で大規模災害の影響に違いがあるか?2011年5月に日赤とIFRCは、今回の教訓を踏まえて高所得国での大規模災害対応を管理するメカニズムを改善するために、最初の6ヵ月間の活動を評価することを決定し、独立の立場で評価を実施する少人数の専門家チームを合同で結成した。その結論が、2012年2月の「高所得国での大規模災害への備えと対応、東日本大震災および津波への対応において日本赤十字社が学んだ知人道研究ジャーナルVol. 1, 201265