「人道研究ジャーナル」創刊号

「人道研究ジャーナル」創刊号 page 78/216

電子ブックを開く

このページは 「人道研究ジャーナル」創刊号 の電子ブックに掲載されている78ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012取り決めは国際人道法となり、人類は、初めて人道の立場にたって、人々を守る条約を結んだのである。赤十字は、戦争を止めさせることはできない。しかし、その戦争によ....

Journal of Humanitarian Studies Vol. 1, 2012取り決めは国際人道法となり、人類は、初めて人道の立場にたって、人々を守る条約を結んだのである。赤十字は、戦争を止めさせることはできない。しかし、その戦争によって肉体的、精神的に苦痛を強いられている人々の苦痛を軽減することはできる。一人の人間を最後のその時まで、その人らしく、生ききることができるようにケアすることはできる。アンリー・デュナンの功績を思う時、そこには、赤十字の理念である人道が脈々と流れ、そして、それは決して机上の理想ではなく、見るに堪えない惨状の中にあっての彼の実践行動から生み出されたことに尊敬の念を抱くものである。今回の学生達の活動は、アンリー・デュナンに比べれば確かに取るに足らない活動かもしれない。しかし、自然災害を前にして何もできない被災者が置かれた立場を、遠く離れた地から思いやり、想像し、その結果として居ても立ってもいられない感情に突き動かされて、街頭募金や被災地での活動に繋げていった学生達は、まさに、赤十字の理念を具現化した1つの証である。その実践行動こそが赤十字の看護教育の基である。人間の苦痛は、戦争だけではなく、大災害や病気などによってももたらされる。「赤十字は苦痛と死とに対して戦う。それは人間がいかなる状況においても人間的に扱われることを要求する」(Pictet,J.S)。この人間の苦痛の軽減、生命と健康の尊重、人間の尊重という赤十字の「人道」の理念は、単なる理想ではなく、具体的行動として現していくことに価値がある。そして、行動上の基本原則として「人道、公平、中立、独立、奉仕、単一、世界性」の七原則を有し、これらは、赤十字の原則としてだけでなく、人道支援における活動の原則として普遍性が広く認められている。2)赤十字の看護教育機関は、この「人道」の理念を建学の精神として掲げてきた。明治23年以来、日本赤十字社は、戦時救護と災害看護ができる看護師の養成を開始した。まだ、社会において看護師の地位は低く、専門職教育がなされていない時代にありながら「人間形成(赤十字人づくり)」と「専門職業人」の2つを教育目標として看護教育を行ってきた。3)医療の高度化・専門分化、看護学の向上等に対応する必要から、看護専門学校から大学での高等教育による看護師養成へと変化してきた今日においても、赤十字の建学の精神に変わりはない。看護教育が大学へ移行しても「人道」の精神はカリキュラムの中に生かされ、赤十字人としての人づくりと国内外で活動できる看護専門職者の育成の重要性に変わりはない。赤十字の看護教育機関では、赤十字概論や災害看護、日本赤十字社救急法、国際看護などの赤十字科目と称される科目立てがある。これらの科目と共に、災害救護訓練やボランテイア活動などの体験や実践活動から学ぶものもある。特に、看護学生によるボランテイア活動への期待は、赤十字に対する社会からの期待にも現れている。したがって、私達、看護教員も赤十字の「人道」の精神を学生達に実体として学ばせるための努力や教育方法の開発に力を注ぐ必要性がある。まず、教える立場である自分達が赤十字の理念を積極的に意識化し、その理念は、脈々と赤十字の看護教育に流れていることを再認識しながら看護教育に繋げていくことが重要である。そして、それは常に実践行動となっていなければ意味がない。先述の意味で、今回の学生達の活動は、赤十字の看護教育の中に根ざしている「人道」の理念を逆に私達教員に再認識させるものとなった。76人道研究ジャーナルVol. 1, 2012