「人道研究ジャーナル」Vol.2

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「人道研究ジャーナル」Vol.2

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 2, 2013条に掲げる[軍の衛生]要員と同一の任務に当たるものは、同条に掲げる要員と同一の地位に置かれるものとする。但し、それらの団体の職員は、軍法に従わなければならない(20)。加えて、衛生部隊の補助機関としての役割に加えて、各国赤十字社は平時における標章の使用許可について義務を負っている。1929年のジュネーブ条約第24条第4項により、赤十字社は平時において無料の救護所にたいして赤十字標章の使用許可を与えることとなった。そして、1949年のジュネーブ第一条約第44条第4項はこの条文をほぼ引き継いだが、これにより各国赤十字社に公的な権利を行使することができるといえよう(21)。戦後も、軍の衛生隊の補助機関としての赤十字社の役割は残ったが、実際の補助機関としての具体的な活動の内容は、第二次世界大戦を境に劇的に変化した。まず、第二次世界大戦終了までは、軍隊の衛生部隊の補助としての役割が欧米および日本の赤十字社において特に重視され、条約あるいは赤十字国際会議の決議などの範囲を超えた活動もときに見られた(22)。とくに第一次世界大戦および第二次世界大戦においては、交戦国の愛国主義あるいはナショナリズムとその国の赤十字社は結びつき、自国軍隊への積極的な支援を行うまでに至った(23)。しかしながら、第二次世界大戦後、状況は大きく変わった。第一に、1949年のジュネーブ第一条約第26条にもかかわらず、軍隊の衛生部隊の補助機関としての活動を行う赤十字社は皆無になった(24)。たとえば、「紳士の戦争」とよばれたフォークランド戦争において、アルゼンチン赤十字社はアルゼンチン本土に戦争が及んだ場合の準備を、英国赤十字社はジュネーブ条約の普及や安否調査活動を行ったが、ジュネーブ第一条約第26条に規定された軍隊の衛生業務については行わなかった(25)。第二に、赤十字社の平時における活動が大幅に広がり、とくに保健、医療、福祉における活動が赤十字社の主な活動となり、この分野における赤十字社の政府の補助機関としての役割が高まった。また、これは戦争を放棄した国の赤十字社である日本赤十字社で特に顕著である。第三に、交通・通信のめざましい発達により、赤十字における交流も進み、国際的な運動としての赤十字が認識され、政府の補助機関としての赤十字社の役割が問われるようになった。III.赤十字の内部規則・原則における補助機関としての役割以上は条約上の義務としての赤十字社の戦時における補助機関としての役割であるが、赤十字の内部規則や原則ではどのようにそれが定められているのか。1948年にストックホルムで開催された第17回赤十字国際会議は、第二次世界大戦後はじめて開かれた赤十字国際会議であり、これまでにないほどの決議がなされた(26)。そのなかには各国赤十字社承認のための10条件を示した決議11があり、なかでも、補助機関に関しては、「とくにジュネーブ条約第一〇条の意味における篤志救じゅつ協会および公共機関の補助機関として、また、軍備を有せざる国においては常民のため事業を実施する篤志救じゅつ協会および公共機関の補助機関として、その合法的政府により正当に承認せられること」と定められている(27)。赤十字は創設以来、人道や中立などの原則のもとで活動を行ってきたが、これら原則を文書の形で公式に表明するということは、100年の長きにわたりなかった(28)。そして、1965年にウィーンで開催された第20回赤十字国際会議において、「赤十字の基本原則」が決議された。そのうちの独立の原則は赤十字社を以下のとおり規定している。赤十字・赤新月は独立である。各国赤十字社・赤新月社は、その国の政府の人道的事業の補助者であり、その国の法律にしたがうが、つねに赤十字・赤新月の諸原則にしたがって行動できるようその自主性を保たなければならない。独立の原則を含む、赤十字の基本原則は赤十字の活動の基盤となるものであり、また、多様な赤十字社をまとめ、統一性をもたらす役割を担っている(29)。最後に重要な文書として、1986年の第25回赤十字国際会議で採択された「国際赤十字・赤新月運動規約」(以下、規約)が挙げられる。規約は、赤十字の各機関の基本事項、赤十字国際会議をはじめとした赤十字の関連会議について定めている。そして、規約第4条は、赤十字社の承認条件を規定しているが、このなかでも補助機関としての赤十字社については、以下のとおりである。その国の正当政府によって、人道分野における政府の補助である、奉仕救護機関として、ジュ98人道研究ジャーナルVol. 2, 2013