「人道研究ジャーナル」Vol.2

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「人道研究ジャーナル」Vol.2

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 2, 2013ネーブ諸条約および国内法に基づき正式に認められなければならない(30)。このように、政府の補助機関としての赤十字社については、当初、ジュネーブ条約以外に別段定めはなかったが、赤十字国際会議において赤十字社の設立条件の一つとして決議され、あるいは同じく国際会議で採択された赤十字の基本原則および規約においても取り入れられるに至った。これらには、しかしながら、法的な性格はないのであろうか。まず、赤十字国際会議の決議は条約ではないことは明白である。条約は国家だけが締結することができ、会議にはジュネーブ諸条約締約国政府の代表も参加するが、主な参加者はICRC、IFRCそして各国の赤十字社の代表である(31)。もっとも、国際法上、条約として認められていないとしても、法的な意義は存在するといえよう。まず、前述のように、ジュネーブ諸条約締約国政府代表が参加することにより、私的な赤十字の会議は公的な意味を持ち、そして国際法上のある程度の妥当性をもつ(32)。また、とくに赤十字の基本原則と規約については、赤十字の関係機関の間では拘束力があるといえる(33)。IV.諸外国における補助機関としての赤十字社つぎに、諸外国において赤十字社が国内法上、どのように位置づけられているか、いくつかの国の例を見たい。まず、コモンローの諸国においては、赤十字社を「政府の補助機関(auxiliary to the public authorities)」と明記している場合が多い。まず、英国赤十字社については、その設立根拠となっている「英国赤十字社勅令」第3条において「奉仕的救護組織であり、政府の補助、特にジュネーブ諸条約にのっとった軍隊の衛生機関の補助機関である」ことが認められている(34)。さらに他のコモンロー諸国のなかでは、例えばシンガポール赤十字社も同様に「公的機関の補助である奉仕的救護組織であり、ジュネーブ諸条約上の義務を果たす」と規定されている(35)。また、コモンロー諸国においては、赤十字社設立は特別な法(Act)によってなされることが特徴といえよう(36)。カナダ赤十字社は、1909年に制定された「カナダ赤十字社法(Canadian Red Cross Society Act)」により設置された。同法第3条(3)は、カナダ赤十字社は、「[1864年のジュネーブ]条約に基づく救護を実施するために・・・認められる」と規定、また、第2条はカナダ赤十字社の目的を規定しているが、同条(1)によりジュネーブ条約に基づく活動を行うことに加えて、同条(4)は「平時または戦時において、世界における健康の改善、疾病の予防そして苦痛の軽減のための事業を実行し、支援する」こともカナダ赤十字社の目的としている(37)。「カナダ赤十字社法」は1909年に制定されて以来、改正されておらず、また、2007年に開催された第30回赤十字国際会議においてカナダ政府およびカナダ赤十字社は、「政府の人道分野における補助機関としてのカナダ赤十字社の地位と役割を強化するために努力し」、また「両者の関係を支持する既存の措置、取極めおよび法律文書を再評価することにより」、カナダ政府とカナダ赤十字社の関係を新しくすることを誓約した(38)。そして、これをうけて、カナダ赤十字社は「活気のある市民社会を構築するためのパートナーとしての協力(Partnering to Build a Resilient Civil Society)」を提出、そのなかで政府の人道分野における補助機関としての赤十字社の役割について調査するとともに、「カナダ赤十字社法」の改正などを提言した(39)。アメリカ合衆国においては、「アメリカ赤十字社連邦特許状(Congressional Charter of the AmericanNational Red Cross)」により、アメリカ赤十字社の目的を、ジュネーブ諸条約などにのっとり「戦時において軍隊の傷病兵にたいして篤志救護を提供し」、また、「平時における国内的あるいは国際的な救援システムを実行する」こととしている(40)。この特許状においては補助機関についての直接の言及はないが、アメリカ赤十字社によると同社は独立した存在ではある一方、「連邦政府と特別な関係を持つ」としている(41)。また、ハリケーン・カトリーナへの対応をめぐりアメリカ赤十字社は批判され、連邦議会は同赤十字社について調査、ケビン・R・コサールがその任にあたったが、その報告書では、他の特許状により設立された団体と比較され、「アメリカ赤十字社だけが「条約義務団体」」とされており、「アメリカ赤十字社は少々変わった事例」であると述べられている(42)。特許状はもともと1900年に制定され、これにより、それまで純粋に私的な団体であったアメリカ赤十字社が、公私両方の分野にまたがる、さらにあいまいな性格をもつようになった(43)。コサールは、アメリカ赤十字社の特徴に鑑みると、同社は「政府に類似した存在であるという結論になるであろう」と述べている(44)。人道研究ジャーナルVol. 2, 201399