「人道研究ジャーナル」Vol.2

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「人道研究ジャーナル」Vol.2

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 2, 2013は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。この条文は前段と後段に分かれており、前段は宗教団体への公金の使用の禁止であり、これは政教分離の原則により厳格に適用されるが、他方、後段の「公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業」への公金の支出は、必ずしもこのように明白な禁止とはなっていない(53)。ここでは公金の支出については、対象外であるため、「公の支配」の概念について判例を参照しながら考える。埼玉県において吉川町(現吉川市)は、高まる幼児数に対応して、幼児教室にたいして補助金を支出し、町の土地と建物を無償で供したが、同町の町民らが補助金支出について、憲法第89条に違反するとして訴えた(54)。第一審において、浦和地方裁判所は幼児教室は公の支配に属する事業であるとして、原告の訴えを棄却、原告は控訴した(55)。東京高等裁判所は控訴を棄却したが、その中で、「公の支配」の意義について以下のように述べている。教育事業に対して公の財産を支出し、又は利用させるためには、その教育事業が公の支配に服することを要するが、その程度は、国又は地方公共団体等の公の権力が当該教育事業の運営、存立に影響を及ぼすことにより、右事業が公の利益に沿わない場合にはこれを是正しうる途が確保され、公の財産が濫費されることを防止しうることをもって足りるものというべきである。右の支配の具体的な方法は、当該事業の目的、事業内容、運営形態等諸般の事情によって異なり、必ずしも当該事業の人事、予算等に公権力が関与することを要するものではない(56)。「公の支配」をめぐっては、「公の支配」を「その事業の予算を定め、その執行を監督し、さらにその人事に関与するなど、その事業の根本的方向に重大な影響を及ぼすことのできる権力を有すること」と厳格に解する厳格説と、「国または地方公共団体の一定の監督が及んでいることをもって足りる」と、緩やかに解する緩和説と二つの説があるが(57)、本判決は後者の説に近い立場をとったということができる(58)。日本赤十字社は、この判例にしたがうと、「公の支配」に属するといえるであろう。この判例の事件は教育についてであるが、「慈善」あるいは「博愛」の事業も「公の支配」に属するものについては、公金の支出が許されている。そして、緩和説をとると、日本赤十字社は日本赤十字社法第36-39条により、厚生労働大臣の監督をうけている。第38条により厚生労働大臣による日本赤十字社役員の解任権も存在するが、他方、同法第3条により、日本赤十字社の自主性は尊重されているため、国の監督は一定程度にとどまるといえる。以上より、日本赤十字社は憲法第89条にいう、「公の支配」に属しているといえる。(3)関連法令における日本赤十字社の具体的な補助機関としての役割i.災害に関する法令日本赤十字社は日本赤十字社法に根拠をおき、事業も同法で定められているが、具体的な事業については個別の法律が規定しているため、まず災害における事業についてみる。日本赤十字社は社法第27条により「非常災害時」において救護を行うが、この具体的な法律としては災害救助法および災害対策基本法がある。災害救助法第1条は、「災害に際して、国が地方公共団体、日本赤十字社その他の団体及び国民の協力の下に、応急的に、必要な救助を行」うことを定めている。そして、さらに以下のとおり日本赤十字社の救助の義務を特に規定している。31条の2日本赤十字社は、その使命にかんがみ、救助に協力しなければならない。2政府は、日本赤十字社に、政府の指揮監督の下に、救助に関し地方公共団体以外の団体又は個人がする協力(第二十五条の規定による協力を除く。)の連絡調整を行なわせることができる。災害救助法制定時、厚生省と日本赤十字社は協定をなしたが、その1は下記のとおりである。災害救助法による救助は、国の責任において行われるものであるから、救助の実施については都道府県知事が責任を負うのであつて、日本赤十字社はこれに協力するという建前である。法第21条第1項の規定は災害救助法による救助に対する日本赤十字社の協力義務を総括的宣人道研究ジャーナルVol. 2, 2013101