「人道研究ジャーナル」Vol.2

「人道研究ジャーナル」Vol.2 page 105/276

電子ブックを開く

このページは 「人道研究ジャーナル」Vol.2 の電子ブックに掲載されている105ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
「人道研究ジャーナル」Vol.2

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 2, 2013ている。もともと1908年に制定された「英国赤十字社勅令」が英国赤十字社を「奉仕的救護組織であり、政府の補助、特にジュネーブ諸条約にのっとった軍隊の衛生機関の補助機関である」と定めているように、かつて赤十字社は政府の中での軍隊の衛生部隊の補助機関としばしばみなされた。しかし、現在では、たとえばIFRC報告書のタイトル『人道分野における政府の補助機関としての各国赤十字・赤新月社』が示しているように、「人道分野」という幅広い分野が活動の対象となるようになった。これは軍隊の衛生部隊の補助機関としての役割も含むが、医療、福祉、血液事業などその他の活動をもって現在では「人道分野」を指すといえよう。政府の人道分野における補助機関としての在り方については、国際法上、特に定められてはいないが、赤十字社を含めた赤十字の諸機関が遵守すべき赤十字の基本原則および規約においては明白に規定されている。他方、各国の国内法における赤十字社の在り方はそれぞれ異なり、統一性があるとは言い難い。イギリスおよびシンガポールの赤十字社は、「補助機関」としてそれぞれの設置法令に明記されているが、軍隊の衛生部隊の補助以外の分野についての言及はない。他方、カナダ赤十字社およびアメリカ赤十字社を設置した法令は、「補助機関」として明記してはいないが、戦時における活動に加え、平時における活動も規定している。フィンランド赤十字社は「補助機関」として明記されてはいないが、公的な団体として位置づけられている。他方、活動はジュネーブ条約上の活動が規定されている。赤十字社についての国内法における規定は現在のところ、このように様々である。ひるがえって日本赤十字社については、「補助機関」という用語は国内法上存在しない。しかしまず、憲法に規定されている「公の支配」に属するとされている。もっとも、「公の支配」に属する機関は日本赤十字社以外にも様々あるため、これのみをもって日本赤十字社が政府の補助機関であるということはできない。むしろこれに加えて、日本赤十字社法および他の関係法令における規定が重要である。日本赤十字社法によると、日本赤十字社は人道的任務を行い、事業としてはジュネーブ条約上の業務および非常災害時の救護などが挙げられ、さらに、国はこれらの事業を日本赤十字社に委託できる。また、厚生労働大臣を監督者としている。これらの規定からも、日本赤十字社が政府の人道分野における補助機関であることは示されているといえよう。さらに、関連法令がそれを補強しているといえる。災害における救護については、災害救助法が日本赤十字社の役割について言及し、災害対策基本法が日本赤十字社を指定公共機関としている。さらに、有事に関する法律においても、日本赤十字社は指定公共機関として指定されるとともに、救援および外国人の安否調査における活動が規定されている。医療事業においては公的医療機関として、血液事業においては血液の事業者として位置づけられている。災害と有事における救護、医療事業、血液事業は公的な面が非常に高く、日本赤十字社はこれらの事業を行うことが法律により規定されている。最後に、指定公共機関として指定され、あるいは国や地方公共団体が本来行うべき業務を日本赤十字社が行うことからも、日本赤十字社は政府の人道分野における補助機関とみなすことができる。おわりに:これからの赤十字社のあり方について各国赤十字社の補助機関としての役割が現在、岐路に立っているのは事実である。今後、赤十字社は国際的な組織として集約され、各国政府の人道分野における補助機関としての役割は減少あるいは消滅するのであろうか。これについては、赤十字国際会議あるいは、ジュネーブ条約締約国会議などの場で議論されるべきことであり、ここで議論するべき議題ではない。しかし、ここで確認できることは、赤十字社の政府の補助機関としての役割は、赤十字社固有のものであり、他の非政府組織や国際機関はもちろんのこと、ICRCおよびIFRCにもないことである。ICRCおよびIFRCは、赤十字の国際機関であり、その活動は真に国際的である。ICRCにとって、その存在国であるスイスの中立は、武力紛争において活動を行ううえで重要である。また、IFRCは各国赤十字社の連合体であり、各国に基盤をおく赤十字社は重要な存在となっている。他方、赤十字の基本原則のなかの世界性の原則から、赤十字社も世界的に赤十字社同士で協力しなければならない。そして、その表れとして国際活動が行われ、たとえば日本赤十字社は災害時の救援を中心に活発な国際活動を展開している。他方、赤十字社のそのような国際活動も、国内活動と比較すると、全活動の一部を占めるにすぎない。各国赤十字社の活動は人道研究ジャーナルVol. 2, 2013103