「人道研究ジャーナル」Vol.2

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「人道研究ジャーナル」Vol.2

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 2, 2013させるため、軍隊の教育の課目に諸条約及びこの議定書についての学習を取り入れ並びに文民たる住民によるその学習を奨励することを約束する。こうした教育的側面と同時に、軍隊への普及が国際人道法の実現のための本質的側面の一つであることは上に述べたとおりである。このために、締約国は諸条2武力紛争の際に諸条約及びこの議定書の適用に約及び議定書の義務を履行するための措置を遅滞なくついて責任を有する軍当局又は軍当局以外の当局は、諸条約及びこの議定書の内容を熟知していなければならない。講じ、その順守を確保するための命令、指示を与え、実施を監視しなければならない(API,80条)。他方で非国際的武力紛争に関する第二追加議定書は、普及義務規定につき、「この議定書は可能な限り同条の起草過程において、いくつかの代表は「できる限り広い範囲において…周知を図る」という文言について、「武力紛争時の規則を平和時に普及(プロパガンダ)することは、戦争の正当性を主張することになりかねない」懸念を表明し、「将来世代を戦争の惨禍から守るためには、条約及びその議定書の普及よりも、戦争の予防にこそその努力を傾注すべきであり、平和的共存と軍縮の強化が最も基本的な目的である」ことを強調した。これは(武力紛争の存在を前提とする国際人道法の規則を普及することは)平和憲法を掲げる日本においても容易に想像される懸念である。これに対して赤十字代表は、国際人道法の普及は世界平和への模索と不可分の一体であることを訴えている。なお、同条の草案は当初、締約国に対し、普及に関して国内で実施した措置を、スイス政府及びICRCに対して4年ごとに報告することを義務付ける規定を置いていた。この規定について、いくつかの代表は国際人道法の履行確保における普及措置及び報告広く普及するものとする」と簡潔に定める(APII,19条)。その背景には、起草過程において、平時から非国際的武力紛争(内戦)を想定したような規則を普及すること(内戦という手段の正当化)への懸念が示されたことにある。しかし法的には、同じく非国際的武力紛争における規則を定めた1949年のジュネーブ諸条約共通第3条も諸条約の普及義務規定の対象であり、諸条約及び議定書の義務は「いかなる場合においても」実施すべき(諸条約共通1条)ことから、議定書の普及が平時から行われなければならないことは自明だと思われる。ICRCの解説は、国際人道法の精神は紛争の性質に影響を受けるものではないとしており、今日的にも内戦における民間軍事会社の台頭や、敵対行為への文民参加等の事象を考慮すれば、両議定書の普及の重要性に実質的な相違はない。また、第二議定書は第一議定書が定める法律顧問や資格を有する者(下記)、利益保護国等の制度を備えていないため、唯一の履行確保措置としての議定書の普及は重要な位置づけにあると言える。義務の有用性を訴え支持を表明したが、反対意見として、それを履行するインセンティブがないことや、【普及を補完する制度(第一議定書)】他国の不履行が明らかになったとしてもなすべき手段がないこと、また、普及の内容と方法に関する技術的措置は国家主権の範疇であるといった意見も挙げられ、結果としてこの草案は否決された。同条の解説においてICRCは、「戦争は人の心に生じるため、人の心に平和の砦を築かなければならない」というユネスコ憲章の前文を引用して普及の教育的側面を強調すると同時に、普及の努力は単に技術的な進歩を図るのみならず、「人類の倫理的進歩」と調和を図って実施されるべきであるとしている。さらに、この点で赤十字には、人道、公平、中立のメッセージを伝えることが求められ、「諸国間の人道規範と平和の精神の促進に貢献しなければならない」として、国際人道法の普及が内包する様々な潜在的価値を訴えている。ジュネーブ諸条約に二つの追加議定書が加わり、付属書を除いてその条文数は559に達した。こうして国際人道法の実体規則が複雑化する背景から、議定書はその適用を確保するための「法律顧問(LegalAdvisers)」の設置を定めた(API,82条)。法律顧問には、平時からの軍隊への普及を担う役割も期待される。他方で軍隊構成員への普及の主要責任を負う指揮官は、指揮下の構成員が国際人道法の「自己の義務について了知していること」を確保しなければならない(API,87条)。さらに、議定書が新たに定める国際人道法の適用及び利益保護国の活動を容易にするための「資格を有する者(Qualified Persons)」にも、同じく平時からの普及の役割を担うことが期待される(API,6条)。人道研究ジャーナルVol. 2, 2013109