「人道研究ジャーナル」Vol.2

「人道研究ジャーナル」Vol.2 page 112/276

電子ブックを開く

このページは 「人道研究ジャーナル」Vol.2 の電子ブックに掲載されている112ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
「人道研究ジャーナル」Vol.2

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 2, 2013【その他の関連国際法規範における普及義務規定】ICRCが2005年に刊行した『慣習国際人道法に関する研究』がその規則143において「文民たる住民の間の国際人道法の普及」として普及義務の慣習法としての成立を示唆しているように、ジュネーブ諸条約及び議定書以外にも多くの関連国際法規範が普及義務規定を備えている。・文化財1954年にユネスコ主導で採択された「武力紛争の際の文化財保護に関する条約」は、その第25条においてジュネーブ諸条約とほぼ同様の普及義務規定を置く一方、その前文が掲げる「いずれの人民に属する文化財に対する損傷も全人類の文化遺産に対する損傷を意味する」という条約精神の実現のための文化財教育の実施を義務付けている(7条)。さらにこれを補完する制度として、利益保護国と監査官の利用等、第一議定書と類似の規定を置いているのをはじめ、普及に関する国内実施措置を4年に1回ユネスコ事務局長へ提出することも定めている(条約第7章)。実際に提出された報告を見ると国際人道法の教育課程を報告しているものもあり、同条約の普及が国際人道法と密接に関連していることがわかる。さらにユネスコ、NGOと協力した教育プログラムの開発(同条約第二議定書30条)など、普及を補完する制度を充実化させている。る教育」の実施等)。さらに普及の実施に関しては関係国連・NGO機関との連携等も期待される(爆発性戦争残存物に関する第V議定書8条等)。これらの条約規範では、これまでのジュネーブ諸条約及び議定書が定めていた「条約の本文」といった普及テキストは示されていないため、普及の担い手にはそれぞれの地域事情においてその内実を具体化する一層の努力が求められる。・国際人権法国際人道法と密接な関係を有する国際人権法も、その多くの条約において普及義務規定を備える。国際人権法ではとりわけ、「個人の権利」という視点に立った「教育権利規定」を定めている点が特徴的である。たとえば、1989年の「児童の権利に関する条約」では、「人権と基本的自由」「友好の精神」「自然環境」等の価値を志向する教育の実施を義務付ける(29条)と同時に、社会面・文化面で有益な情報をマスメディアが普及すること(17条)を奨励する。こうして条約精神(ないし個々の条文が定める目的)の普及の必要手段を国家に大きく委ねている点は、上に見た兵器の啓発・リスク教育と類似する点である。なお、多くの国連機関の諸決議が、国際人権法と国際人道法の普及は一体として行われるべきことを勧告しており、国際人道法の普及テキストはもはや、ジュネーブ諸条約及び追加議定書に限定されないものと言える。・兵器【結語】1980年に国連主導で採択された「特定通常兵器使以上見てきたように、国際人道法の普及義務規定用禁止制限条約」はその第6条で条約の普及義務を定が想定してきた普及の意義と射程、また、それを補めている。同条約は2001年の改正により非国際的武完する制度は、その萌芽期から大きな広がりを見せ力紛争へも適用されることとなり、普及義務規定もた。普及の目的は、今や戦場における行為規範とし非国際的武力紛争を想定した実施が推定される。普ての国際人道法の適用の実効性を高めることのみな及を補完する制度として、地雷等に関する「第II議らず、紛争の有無に関係のない幅広い地域と世代に定書」では、「議定書に関する情報の周知」についてわたっての「平和の精神の涵養」といった教育的価講じた措置の寄託者への年次報告、及び、締約国会値までも包含するようになった。また文化財や爆発議前に当該報告を全締約国に送付することを定めて性兵器の啓発・リスク教育など、各締約国にその普いる(13条)。なお、条約の本文そのものの普及では及(教育)の内実の具体化を大きく求める一方で報ないが、兵器に関する条約ではその啓発(Awareness告制度を充実させる規範も見られるようになってきActivities)・リスク教育(Risk Reduction Education)を義務付けている点が特徴的である(対人地雷禁止条約6条「地雷による傷害又は死亡の発生を減少させるための地雷についての啓発活動」の実施、クラスター弾に関する条約4条「危険の低減を目的とすた。さらに、国際人権法の潮流は、国際人道法が目的とする「人間の尊厳の保護」とその条約精神を共有し、その普及ないし教育的側面においても大きく合流している。こうして、かつて第一議定書の4年ごとの報告義務の採択を阻んだ国家主権の壁の内側110人道研究ジャーナルVol. 2, 2013