「人道研究ジャーナル」Vol.2

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「人道研究ジャーナル」Vol.2

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 2, 2013このように始まりはささやかだったが、その後戦闘員と文民の権利を一様に擁護する国際法を生むに至った。武力紛争中のさらなる苦しみを緩和し、援助を与えるのがその目的である。この思想を現場で実際に反映させるため、医療施設や要員、医療車両が保護される必要があった:それらが中立の立場にある限り、また、政治的、宗教的あるいは民族的な帰属にかかわらずすべての患者を平等に扱う限り、攻撃されてはならないこととなった。保護の対象であることを意味する赤十字、赤新月、赤いクリスタルの標章は、医療施設・車両、医療従事者であることを明示するために採用された。1949年ジュネーブ諸条約とその追加議定書また慣習国際法に定められているこれら規定は、医療ケアを得る権利と、紛争のすべての当事者が戦闘後に負傷者を探し集め、医療施設へのアクセスを得られるようにする義務と合致する。内乱を含め、いかなる時でも医療ケアを保護する人権法と併せて、これらの法律は世界中のすべての国家と紛争当事者を拘束する。しかしながら、必ずしも尊重されているわけではない。2008年、ICRCは活動を行っている16カ国において、暴力が医療現場に及ぼす影響についての研究に着手した。事例報告は、医療組織、赤十字と赤新月社のスタッフそしてメディアを含むさまざまな情報源から寄せられ、もっとも重大な暴力の形を特定する目的で分析された(次項以降を参照)。統計は、患者や医療従事者、医療施設および車両を対象とした広範な攻撃の特性について厳しい現状を示すが、問題の全体像を捉えることはできない。特に、援助機関や記者がアクセスできないパキスタンやアフガニスタンの多くの地域では、状況把握が難しい。さらに統計には、医療施設の閉鎖やスタッフの離職など、攻撃の間接的かつ波及的事象は反映されていない。したがって、本報告書は、特定の暴力のタイプをより詳しく検証する前に、紛争や内乱において生じた医療ケアに対する一般的な混乱状況にまず着目した。暴力の負の連鎖もっとも必要な時に医療サービスを妨害する暴力武力紛争や内乱-暴動や暴力的な抗議-は、直接参加している者やその最中に身柄を拘束される者に対して危害を加える。深刻なケガは医療の手当てを必要とするが、医療サービスが最も必要とされるのは混乱や干渉、攻撃の最中で、医療サービス自体が力をそがれている状況下である。暴力が実際行使されている時、またその影が忍び寄ってきている時に、医療サービスを提供する上で様々な形で影響を及ぼす。第一に、医療施設付近で戦闘が起こっている場合、傷病者や医療従事者、また施設に基本的な医薬品や医療器具を届ける車両が医療機関へのアクセスを妨害される。戦闘はまた、水や電気の供給やバックアップのための発電機への燃料の補給を中断する。たとえば、2011年3月、コートジボワールの首都アビジャンでの激しい戦闘によって、救急車は負傷者を運ぶことができず、医療分野の人道組織である国境なき医師団(MSF)は、町の北半分で唯一機能していたアボボ南病院に医療物資を補給できなかった。病院には毎日、多くの負傷者があらゆる交通手段によって運び込まれ、医療備蓄品は瞬く間に底をつきそうになった。MSFチームの責任者長だったSalha Issoufou医師は、「この状態があと数日続けば、病院は麻酔薬、減菌済み包帯、手術用手袋を使い果たすだろう」と懸念していた。第二に、暴力が原因で、安全な地域に医療従事者やその家族を含む民間人が避難するようになる。イラク保健省の報告によれば、2003年から06年の間、34,000人の医師のうち18,000人が国外に逃れた。リビアも、2011年初めに生じた情勢不安以来、医療の専門家の脱出によって影響を受けた。それというのも、医療従事者、特に看護師の大部分が外国からの移住労働者だったからだ。2月に各国政府が自国民に対してリビアを離れることを命じた際に、ベンガジやミスラタの病院など重要な医療施設は深刻な人員不足に陥った。スタッフの不足は攻撃で傷ついた者のみならず、定期的なケアを必要とする慢性疾患で苦しむリビア人に対しても影響を及ぼした。第三に、暴力は、将来に影響する、重要な予防医療ケア計画(たとえば予防接種キャンペーン)の実行を妨げる。たとえばポリオ撲滅のための闘いは、予防接種を施すチームの安全を確保できないアフガニスタンやパキスタン、コンゴ民主共和国などの国では後退。さらに紛争は、医療ケアの行き届かない地域へ人々を追いやる。そうした時期が一番病気にかかりやすい時期であるにもかかわらずだ。16人道研究ジャーナルVol. 2, 2013