「人道研究ジャーナル」Vol.2

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「人道研究ジャーナル」Vol.2

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 2, 2013暴力によって引き起こされる医療現場へのこのような妨害は、スタッフや施設に対する明らかな攻撃よりも見えにくく、またその程度を判断するのが難しい。しかしこうした攻撃は、援助を必要としているすべての傷病者の医療へのアクセスを絶つため、同様に致命的である。■ポリオ撲滅に取り組むためのアクセス確保20年以上もの間、深刻な被害をもたらすポリオを撲滅するため、多大な努力が払われてきた。感染率と罹患率の低下においては大きな進展が見られたが、幾つかの主要国にはびこる暴力が、完全な撲滅を目指す上で大きな障害となっている。ポリオが蔓延している4ヵ国のうち、パキスタンとアフガニスタンの2ヵ国では、戦闘や、予防接種チームの感染地域へのアクセスが治安上保障されていないことから、予防接種の普及が妨げられている。軍事攻撃から逃れるため人々は避難し、それがまた感染地域から非感染地域へポリオを広げる一因ともなりうる。2008年、KhyberPakhtunkhwa地方と、国が管理する(Federally administered)部族地域の人々が暴力から逃れるためパキスタンのパンジャブ地方に流入した際、ポリオが大流行した。パンジャブでは過去二年間ポリオは見られなかった。アフガニスタンとパキスタンのある地域では何十万人もの子供たちが医療ケアを受けられない状況にある。2007年、アフガニスタンの保健省とWHO(世界保健機関)は、アフガニスタンの武装勢力と唯一接触しているICRCに対して、ポリオの予防接種を施すスタッフの安全な移動について交渉するよう依頼した。アクセスできない地域はいくつかあるものの、この予防接種計画に武装勢力が同意したことで、全国でキャンペーンが再開され、より広範囲な活動が可能となった。「真っ先に戦争の被害を受けるものの中に、医療体系そのものがある」マルコ・バルダン, ICRC主任戦傷外科医医療施設に対する暴力武力攻撃と内乱における医療施設への攻撃は、4つのカテゴリーに分類される。第一は、敵対する者およびその支援者に対する医療サポートを奪うことによって軍事的優位に立つため、施設を恣意的な攻撃目標とすることである。なかには、保護施設を攻撃対象とすることによって現地の人々を恐怖に陥れようとしたり、負傷して病院で治療を受けている仲間を助け出そうと計画される場合もある。2010年6月、パキスタンのラホーレにあるジンナ病院への攻撃は、80人以上の礼拝者が犠牲となったモスクへの爆弾投下の後拘束された負傷兵を解放する目的であった。警察官の格好をした3人が銃を携えて病院内に入り、無差別に発砲、医療従事者や患者、警備員を殺害した。攻撃に関する第二のカテゴリーは、これもやはり意図的ではあるが、軍事的利益そのものというより、政治的、宗教的または民族的な理由によるものである。2010年6月のキルギスタンでの民族対立では、ウズベキスタン人経営の診療所が焼き打ちに合い、2011年初頭にはバーレーンで、反政府抗議運動を支援したとみなされたサルマヤ病院に非常線が張られ、軍事占拠された。また、2010年の2月にはパキスタン・カラチの病院が爆撃された。この事件の前に、シーア派の一派を乗せたバスが宗教的理由から攻撃され、生存者が同病院に収容されていた。爆撃は、彼らを狙ったものだった。第三のカテゴリーは、故意でない攻撃や砲撃、つまり軍事目標を狙ったミサイルあるいは迫撃砲からの「付随的損害」である。これは軍事活動が、人口密度の高い都市部で実行される場合に最も頻繁に生じる。武力を行使する者は、合法的な攻撃対象と違法な攻撃対象を区別するために可能な限り注意を払わねばならない。リビアやスリランカ、ソマリア、パレスチナ占領地、レバノン、イエメン、ルワンダで起きた紛争は、医療施設に深刻なダメージを与えた一方で、それらは誤解による攻撃であったと主張された。医療施設のリスクは軍事人道研究ジャーナルVol. 2, 201317