「人道研究ジャーナル」Vol.2 page 30/276
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「人道研究ジャーナル」Vol.2
The Journal of Humanitarian Studies Vol. 2, 2013はじめに本稿は紛争時における文民(もしくは一般市民)の保護(Protection of Civilians)およびこれに密接に関係する人道アクセスの交渉・確保と人道支援要員の保護に関する諸課題と、こうした課題に対する国際社会による取り組みを主に国際連合(国連)の観点から論じたものである(1)。なお、本稿の論考部分は筆者の所属組織である国連および国連人道問題調整事務所(United Nations Of.ce for the Coordination of HumanitarianAffairs、OCHAオチャと呼称)(2)の見解を必ずしも代弁するものではない。第1節では、文民の保護がどのように実践されているのかを現場及び本部レベルに分けて概観し、特に双方におけるOCHAの役割を述べる(3)。その上で、第2節と第3節では文民の保護を実現するためには欠かせない人道アクセスの交渉・確保と人道支援要員の保護に関する国際社会としての取り組みについて検討する。そして結論では、2011年7月に外務省が発表した「我が国の人道支援方針」を踏まえつつ、主に日本の役割という観点から、本稿の議論から導き出されるいくつかの政策的示唆に触れることとしたい。OCHAは1992年に国連総会決議46/182により設立された国連事務局の一部であり、自然災害および紛争等の人道状況下で国際支援・保護活動の調整(コーディネーション)を担っている(4)。より具体的には、現地での支援業務調整・啓発/理解促進・政策形成・情報管理・資源調達という5つの相互に密接に関係した機能を果たしている(5)。現在は英国出身のヴァレリー・エイモスが人道問題担当事務次長(Under-Secretary-Generalfor Humanitarian Affairs)としてOCHAを率いている(6)。なお、人道問題担当国連事務次長は国連人道機関、赤十字国際委員会(ICRC)と国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)及び主要国際NGOからなる協議体である機関間常設委員会(Inter-Agency Standing Committee:IASC)の議長を務め、緊急援助調整官(Emergency Relief Coordinator: ERC)として国際人道支援活動の調整や国際人道問題に関連する政策形成等でリーダーシップを発揮している。他方、現地レベルでは、当該国で活動する国連機関のうち、緊急時対応にあたった経験があり最もシニアレベルの国連職員が人道調整官(Humanitarian Coordinator: HC)として任命され、OCHA現地事務所はこの人道調整官を効果的に補佐する役割を担う。そして、人道調整官は緊急援助調整官の指導のもと、現時で活動する国連人道機関および国際NGOから構成される人道カントリーチーム(Humanitarian Country Team:HCT)を率いて緊急支援や人道危機に対処することとなる。Ⅰ.文民の保護紛争下において文民の保護を実現するため、国連およびより広く国際人道コミュニティーは、この課題によりシステマティックに取り込もうとしている。IASCは文民の保護を「国際人道・人権・難民法を含む国際法に沿って年齢・ジェンダー・社会・エスニック・国籍・宗教その他の背景に関わらず全ての個人の権利が十分尊重されることを目的とした諸活動」と定義しており、この概念に基づいて文民の保護を実現するための諸活動が国連人道機関及び他のIASC構成員等によって進められている(7)。IASCの定義に従えば、実現されるべき保護は単に物理的な安全の確保に限らず、生きる権利、拷問や性別とジェンダーに基づく暴力からの自由、移動の自由、地雷などの脅威からの自由、食糧・水・医療・教育などの人道支援を享受する権利、そして財産・居住権などを含む広範な権利の充足を意味する。したがって、保護を実現するための国際人道機関による諸活動は、国際人道支援活動の中核をなすものと言えよう。この考えから、保護(Protection)か支援(Assistance)かという「二項対立」という考え方に筆者は組しない(8)。ところで、文民の保護の定義に関して注意を要するのは、文民の保護と「保護する責任」に関する議論を混同しないことである。この二つは根本的に違うレベルの概念である。文民の保護は国際人道・人権・難民法に基づく法的概念で、武力紛争でこうした法の趣旨を実現するための具体的活動や関連法規の違反に関するものを指す。他方、「保護する責任」は政治的概念で、戦争犯罪・人道に対する罪あるいはジェノサイドや民族浄化といった違反行為にのみ適用される。(なお、ジェノサイドや民族浄化は武力紛争下でなくとも起こりうる点に留意が必要である。)(9)文民の保護に関する説明責任という意味では、国家もしくは非国家アクターを問わず紛争当事者のすべてが28人道研究ジャーナルVol. 2, 2013