「人道研究ジャーナル」Vol.2

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「人道研究ジャーナル」Vol.2

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 2, 2013全体として人道要員に対する保安事故の件数は増えており、その一例としては2003年8月19日、イラク・バグダッドの国連本部爆発事件があげられる(この事件により22名が殺害された。)また図Ⅰを見ると、総数としては現地スタッフのほうが国際スタッフよりも被害にあっていることがわかる。こうしたことから、人道支援に携わる全ての人々に敬意を表し、またこうした人々の安全確保に関する啓発を目的として、国連総会決議に基づき毎年8月19日が「世界人道デー」(World Humanitarian Day)と定められ、同日には世界中で様々なキャンペーンが繰り広げられている(30)。またこうした取り組みの一環として、OCHAは「To Stay and Deliver」と題する研究報告書を取りまとめた(31)。この報告書では、治安リスクの高い地域で人道支援業務に従事している要員の安全確保に関し、多くの関係者からのヒアリング等を通じて主要課題が検討され、こうした課題に取り組む上での様々なグッドプラクティスが紹介されている。例えば、対象地域での支援活動の浸透と理解促進、支援事業に対するコミュニティーによるオーナーシップの推進、及び現地職員の権限強化等を通じ、総じて受容性(Acceptance)の構築が強調されている。その具体例としては、ICRCがアフガニスタンで500回もの支援地域でのミーティングを通じて、計1万人以上の人々に会うといった努力を払ったこと等があげられている。さらには、平和維持活動や軍関係者への関与も含め、安全な人道アクセス確保に向けた努力も重要とされている。例えば2006年のレバノンや2008年12月から2009年1月にかけて発生したガザ地区における戦闘で、OCHAがイスラエル軍とのリエゾンオフィサーを置き、人道支援継続を阻む危険や障害をシステマチックな形で回避すること(Deconfliction)に貢献したことが触れられている。また、一貫性をもってアクセス交渉にあたるため、最低条件と根本原則を現地人道コミュニティとしてあらかじめ確立・確認しておくことの重要性も述べられている。例えば2009年のソマリアでは、武装勢力から人道アクセスの対価として現金などを求められても払わないなどの共通ルールに人道支援団体が合意している。他方、リスクを単に現地スタッフ等に転嫁するだけとならぬよう、治安も含め現地事情に合わせた支援プログラム作りを心がけるとともに、戦略的に業務の現地化や遠隔管理(Remote Programming)を進めることもあげられている。こうした工夫の1つとして現地事情に通じ地域とのネットワークも持つ離散民(Diaspora)出身者が国際職員として活躍している例もある(ソマリア)。イラクでは治安も含め現地事情に精通した現地専門職員が十分活用されている一方、アフガニスタンやパキスタンでは国際職員が定期的に現地を訪問する等のかたちで言わば「ソフトな」遠隔管理が行われている。加えてできるだけ地域にまぎれる、あるいは活動を目立たなくする努力も重要とされている(LowProfile)。例えば、アフガニスタンやパキスタンでは組織のロゴを使わない、大型四輪駆動車ではなく小型車を使う、住宅地にオフィスを設置するなどの工夫がなされている。結論本稿では文民の保護のための国際社会による努力と保護を実現する上で不可欠である人道アクセスの交渉・確保および人道支援要員の保護について、特にOCHAの役割を含め国連の観点から考察した。最後にこれに呼応する日本政府や関係者の取り組みについて検討することとしたい。外務省は「我が国の人道支援方針」を2001年7月に発表している(32)。この中で、「冷戦の終結以降,国家のみならず非国家主体も紛争に関与するようになるとともに,戦闘員と非戦闘員の区別が曖昧になってきている。これに伴い、紛争に際しそれに関与しない民間人を攻撃してはならないという基本的な人道法の原則が遵守されず、人道支援要員が武力紛争において、意図的な攻撃のターゲットになる事例も増加しており、人道支援の深刻な阻害要因の一つとなっている」ことが述べられている(33)。他方、難民・国内避難民に対する保護・支援が具体的な対応方策に含まれているものの、武力紛争下における文民の保護という側面については、人道支援要員の安全確保を重視している他は、ICRCによる国際人道法普及活動への支援以外は直接的言及がない(34)。武力紛争下における文民が置かれた立場は、まさに日本政府・外務省が外交基軸として重視する「人間の安全保障」が最も著しく損なわれている危機的状態といえる。しかし、人間の安全保障というと、これまではな32人道研究ジャーナルVol. 2, 2013