「人道研究ジャーナル」Vol.2

「人道研究ジャーナル」Vol.2 page 35/276

電子ブックを開く

このページは 「人道研究ジャーナル」Vol.2 の電子ブックに掲載されている35ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
「人道研究ジャーナル」Vol.2

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 2, 2013ぜか紛争後の復興や平和構築との親和性が強調されることが多かった。また人間の安全保障をめぐる議論の中で保護(プロテクション)を取り上げた場合、「保護する責任」もしくはこれと差別化したいという強い衝動のみが連想され、その中間に位置すべき言わば「普通の」文民の保護について議論が及ばないことが多いように思われる。しかし人間の安全保障を唱えるならば、武力紛争が最も激しい状況下における文民の保護、例えば現在のシリア国内や(筆者もOCHA本部で担当した)内戦末期の北部スリランカ等の具体的状況下で、文民の保護を実現するためにどのように能動的に関与していくのかを日本政府として示していくことが望まれる。その際は、例えば本稿で紹介した国連などによる現場レベルでのさまざまな取組みを、資金面含め積極的にバックアップする、あるいは政策・本部レベルでの外交的関与を強めるといったことが考えられる。本稿で論じたとおり、人道アクセスの確保と人道支援要員の保護は、文民の保護を実現する上で不可欠であり、また相互に密接な関係がある。特に保護されるべき文民の中には人道支援要員自体も含まれていること、そして多くの被災者・避難民自身も実は人道支援に携わる人々に他ならないことも忘れてはならない。なお、同外務省文書でも使われている「人道スペース」という言葉遣いには注意が必要である。人道支援要員への攻撃を指しているのか、人道支援自体が政治・軍事目的化される懸念を指しているのか等、人によって解釈や焦点が異なる(35)。具体的に何が問題なのかを特定しなければその問題に対する解決策を描くことはできない。この点で「人道スペース」に関しては、人道アクセスとその個別制約要因に言い換えて議論することがより有用ではないか。また、与えられた「人道スペース」の保持だけでなく、拡大のための努力をすべき点を強調したい。萎縮しつつある「人道スペース」に対し、傍観する・あるいは受身の対応をするのではなく、これを押し返すようなよりプロアクティブな取り組みが必要であり、さもなければ「人道スペース」は益々萎んでしまうことを懸念すべきである。例えば、現地で取りまとめられる人道アクションプランやプロテクションストラテジーの中で、何が必要か、どのようにこれらを達成するのかが合意されている。したがってこれらが実現されるよう、現地大使館及び国連代表部等が当該国政府への働きかけや資金供与等を通じて後押ししていくことが望まれる。また国連安全保障理事会等における外交上の関与も極めて重要である。もし働きかけを行うのであれば、個別団体の活動をめぐる「人道スペース」の議論だけを取り出すのではなく、紛争当事者が法的義務を負う「文民の保護」の実現という大目標に照らして、人道アクセスや人道支援要員の安全を主張すべきであろう。その際には、軍事的介入やPKO派遣をめぐる政治的議論との区別を明確にして、人道性・中立性・公平性・独立性という人道原則に立脚した首尾一貫したスタンス・対応が求められる。その上で、特に人道アクセスの交渉・確保のためには、様々な制約の要素を乗り越えてより効果的な支援を届けるため、個別制約要因を把握・分析すること、制約要因毎の対策を立てること、そしてその対策に実効性を持たせる必要があり、そのためには支援・説得・圧力等の具体的アクションを最も効果的なかたちで組み合わせることが必要となる。また人道支援要員の保護については、現地事情に合わせてその都度ベストの対処を編みだしていく必要があるが、これも紛争当事者が法的義務を負う文民の保護の実現に照らして主張すべきことであろう。現在、国連職員の安全管理に関する議論も、支援活動撤退の基準ではなく、どのようにして支援を継続するか、まさに「To Stay and Deliver」に焦点を移しつつある。人道支援機関は時に人道アクセス確保と人道支援要員の安全確保との狭間で困難な決断を要することがある。他方、スーダン・ダルフールの例のように、人道アクセス交渉の前進が人道支援要員の安全確保に繋がることもある。いずれにせよこうした決断や交渉をリードする緊急援助調整官や人道調整官といった人道面での指導力(humanitarian leadership)への粘り強いサポートと、分断統治(divide and rule)を試みる紛争当事者に屈しない一体感のある人道カントリーチームの形成が不可欠である。こうした機能を支えるOCHAや国連安全保安局(DSS)等に対する投資もまた不可欠と言えよう。最後に、「受容性構築」について、もっと日本ならではの貢献ができないかを真剣に検討することを提案したい。残念ながら国際人道支援は西側アジェンダの押し付けではないかという「パーセプション」が広まる中、人道研究ジャーナルVol. 2, 201333