「人道研究ジャーナル」Vol.2

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「人道研究ジャーナル」Vol.2

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 2, 2013様々な機関による広域支援体制が確立し、地元の営業活動が再開するまでのすき間の期間に、被災者に対して必要最低限の救援物資を届けることや、少しでも多くの人を救うための医療救護支援(被災地医療、医療救護班派遣)体制の早期確立が重要課題であると言えよう。(1)要請主義か自主出動か災害救助法に基づき、都道府県からの委託業務として日赤は災害救護活動を実施することになっているが、県を通じて被災市町村から具体的な物資等の要請が上がって来るまでにはかなりの時間がかかる場合が多い。要請が出にくい背景には、被災した地元市町村は、災害発生直後きわめて混乱していることや、地方自治体が財政的に窮乏しているため、受援による財政負担が増えてしまうのではないかと躊躇したり、行政職員が災害救助の仕組みや、日赤がどのような対応ができるかを理解していなかったり、要請手順などの基本的な災害対応の知識を身につけていないことが指摘できる。中には、まったく物資を備蓄しておらず、全面的に日赤を頼りとしている市町村においてすら、要請を失念してしまったり、災害救助法の適用申請を誤り、適用外となった事例もあった。緊急性がきわめて高い医療救護については、地方自治体が応援要請の必要性や手続きを知らなかったり、被災した医療機関は自力で可能な限り対応しようとして、要請のタイミングを失してしまう場合が見られる。また、直接市町村に問い合わせてみても、被害が把握できていない段階では、要請を「不要」と断ることすらあるので、時間が経過してから再度確認し、フォローする必要がある。政府等においても、各都道府県を通じて情報収集していたのでは対応が遅れることから、直接市町村に問い合わせる方式を取るようになっている。日赤支部においても、都道府県からの正式な要請を待たずに体制をとる方針に変わってきている。また、日赤としては、初動の救護班の出動を迅速化することが大きな課題である。赤十字病院では、通常の病院機能を維持しながら救護班を編成・派遣するが、中小規模の病院では、病院の医師不足が常態化するなか、医師の事前指名ができなかったり、事前に指名してあっても、その時点の勤務態勢を前提に人員編成を行うので、適切な要員が組めない場合もある。病院職員等の参集時間や搬送資機材等の準備時間等も絡むため、実際の出動までに数時間かかることが多い。さらに、可能な限り迅速に出動しても、救護班が被災現場に到着した時には急性期を過ぎていたり、急性期医療を必要とする人や救護所となる拠点を探し回り、彷徨った事例もあった。これらを解決するためにも、機動性が高く、急性期に活躍できる赤十字DMATを編成するなどで、迅速出動を図っている。(2)「目的的災害時情報収集方式」の重要性また、日赤の過去の災害時対応では、災害時情報収集に課題が多く、対策の最前線に立つ本部において、情報収集先や把握すべき情報内容が十分ではなかった面が見られた。被害状況の読み違えや、医療ニーズ等の不収集、資源配分の誤りにつながる。災害時に迅速で的確な対策を実施するには、被害状況の適切な把握と推定に基づく情報収集方法(目的的情報収集方式)を取ることが重要だが、特殊なノウハウを必要とする。例えば、日赤としての活動拠点確保などの初動対応を有効にするには、先遣隊(初動対応班、偵察隊)の役割が重要であり、平成16年新潟県中越地震、平成19年能登半島地震、平成19年新潟県中越沖地震時には、各支部から初動対応班が被災地に派遣されている。「先遣隊」は土地勘を持ち、通行可能なルートと、日赤の対応可能な救護活動の内容を熟知し、救援相手との交渉力を保持しているか否かで有効性がきわめて違ってくる。この被災地と連携するための先遣隊の役割を、支部職員だけでなく、防災ボランティアや赤十字奉仕団が役割を果たしていたことがある。平成16年新潟県中越地震時には、上越市の赤十字特別奉仕団が、小千谷市役所に先に到着し、支部が救護所を開設する拠点を確保していた。また、平成19年能登半島地震の時には、石川県支部では本部を立ち上げる(直前に図上演習を行っていたことも、支部職員の参集効果があったとされている)一方で、1人の防災ボランティアが「先遣隊」の役割を務め、能登半島一帯を回って、道路被害状況を報告、最も被害が大きいと判断した輪島市役所に向かい、毛布等の要請を支部に伝えた。「先遣隊」が捉えた被害状況がほぼ適切で、被害が集中していた輪島市から救助要請が迅速になされたことが、次の適切な救助・救援活動を展開することに大きく寄与した。初動時には、赤十字社の業務に協力するボランティアの活躍も大きいので、さらに情報収集技能等を向上させる必要があると言えよう。このような「先遣隊」が持つノウハウ(地元の土地勘に基づく選択ルート、情報収集内容、情報収集元、連絡手段・方法、交渉内容等)を生かすため、人道研究ジャーナルVol. 2, 201345