「人道研究ジャーナル」Vol.2

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「人道研究ジャーナル」Vol.2

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 2, 2013多数の死者が発生した消防団においては、水門閉鎖中の人が約3割、津波避難の呼びかけや避難誘導中に死亡した人が約7割とされており、なかなか避難しない住民等の説得に当たり、避難が遅れたことが死に至った大きな原因となっていた。このため、消防団活動には限界があり、津波警報において来襲予測時刻が発表されることもあり、地震発生から何分後までに消防団は撤退するなどのルールを決め、住民等に周知しておく必要があるのではないかとされている(9)。ただし、“消防団の撤退ルール”が出されると、「消防団員は住民を見捨てて、我先に逃げてしまうのか」、一方の消防団員等からは「地域住民を守る立場にあり、心情的に撤退はできない」という意見が出されており、なかなか合意が得られにくい。しかし、東日本大震災においては、早い所でも津波は地震発生から30~40分後に来襲していたのに対し、平成5年北海道南西沖地震では、奥尻島に2~3分後に来襲していること、予想されている東海地震や南海地震においても早い所では数分で来襲することが予想されており、地震が起きたら沿岸部では津波を警戒して即高台に避難せざるを得ないという実態がある。地域の状況に応じて、対応ルールを検討し、徹底しておく必要があると言える。(2)職員及び協力者等の心的ケアこころのケアは、もっぱら被災者や外部ボランティアの燃え尽き症候群対策と解釈される傾向があるが、救護班員や職員等の支援者自身のケアが必要な場面が生じることがあることにも、留意する必要がある。支援者は、凄惨な被災現場や多数の死者に直面したこと、様々な支障により支援活動が円滑に進まないことなどがストレスとなり、こころのケアを必要とすることがある。例えば、多くの地方自治体では、被災者支援を優先し、自治体職員の活動環境整備や食糧配給等の後方支援が後回しになることが多い。職員自身が被災したり、職員の家族や親戚が多く被災した中で、災害時業務を遂行することはきわめて荷が重く、長期にわたる対応により心身共に疲弊し入院加療が必要になるなど影響が大きい。いわゆるメンタルケアも関連するが、次のような配慮が必要となろう。○職員、職員家族の安全確保・安否確認:家族を亡くした職員への対処方法、ケアを必要とする業務の分担のあり方○職員の負担を軽減する:応援職員等の導入○活動環境を整える:職員用食料・水の用意、わずかでも休息をとること○職員交替制の導入:早期のローテーション組み立てまた、医師や看護師等が、死に直面した家族の医療継続を願って追いすがるという事態は、災害医療訓練にも取り入れられているほどであるが、被災者のやり場のない怒りが支援者に向けられることが、ストレスの一原因となることはさほど知られていない。地方自治体の職員や、避難所運営に係わる学校関係者等が罵倒されたり、暴力を受けたりする事例が散見されている。被災地では、被災者同士が助け合う“災害時ユートピア”現象が現れるという美談が広く伝えられているが、“ユートピア”現象は長くは続かず、一方で、災害が発生した当日から、被災者同士のいがみ合いや、支援者に対する叱責等が向けられることがある。そのような被災者との軋轢による負の側面は、救援活動の前線に立つ赤十字社職員、医療救護班だけでなく、赤十字奉仕団員やボランティア等にも向けられることがあり、災害救護に対する使命感の高さだけでは解決できない場面があることを、赤十字奉仕団員や一般のボランティアに対しても研修等で十分周知しておく必要がある。4.今後の災害救護体制の拡充に向けて-災害管理の視点から-災害救護が日赤のほぼ独壇場であった時代から変貌を遂げ、日赤としての独自性を錬磨しつつ、様々な関係機関との連携が重要な時期に移行してきている。このため、日赤としての責務である分野における確実性を高める一方で、災害対応の長期化・継続性に留意した対応力の向上が求められる。以下では、3.で示した課題の解決方策を、災害管理の視点から考察する。4-1被害及び状況推定の重要性日赤では、発災直後から初動体制を確立し、特に被災地からの情報発信等が少ない中で、都道府県支部やブロック単位で、被災地への支援体制を組み立て、限られた資源を派遣・配分していくことになるが、その際、人道研究ジャーナルVol. 2, 201347