「人道研究ジャーナル」Vol.2

「人道研究ジャーナル」Vol.2 page 52/276

電子ブックを開く

このページは 「人道研究ジャーナル」Vol.2 の電子ブックに掲載されている52ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
「人道研究ジャーナル」Vol.2

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 2, 2013さらに、災害救助は“公平性”を基本として実施されるが、近年の災害においては、救援物資が一局集中することによる避難所格差や、被災者生活再建支援制度や県によっては独自の個人支援等がなされることによる被災者格差が生じている。東日本大震災において日赤では、応急仮設住宅入居者だけでなく、みなし仮設住宅入居者にも家電製品等の配付をするなどの配慮をしているが、特にコミュニティの結束が大きい地区では自助・共助が確立しやすい一方で、問題指摘が厳しく、住民間に亀裂を引き起こす危険性があることにも留意する必要がある。一方、現物支給が原則の災害救助制度では、貨幣経済の世の中で、被災者が自立するための一時金が不足することが自立の大きな妨げとなっている。重い課題であるが、義援金を含め、被災者に対して迅速に現金を支給できる仕組みについて再考する余地があると考える。4-3災害医療体制の連携強化(1)組織混在型医療統括本部体制被災現地の医療救護本部では、複数の防災関係機関や、医療・福祉関連機関の調整がなされ、日赤だけでなく、他機関との活動調整や連携のあり方が問われた。また、東日本大震災において、医療コーディネーターが機能したことから、厚生労働省の通達に基づき、各都道府県では、医療救護計画を改定する中で、医療コーディネーター制度を取り入れ、個人を指名するところが多くなっている。現地医療本部が開設された時の医療コーディネーターの権限や業務対象(緊急時医療のみか長期医療か、検死までを含むか、医療資機材・薬品の調達、心的ケア、衛生等)、活動調整のノウハウなどは、東日本大震災時の対応等が参考になるものの、災害拠点病院等を含む指揮命令系統等は、地域によって異なる可能性が高い。地域の実情に応じた体制の構築が求められるが、その中で日赤が果たしうる役割を模索する必要があろう。(2)広域搬送体制の確立重症患者等の広域搬送先については、東日本大震災では赤十字社の系列病院や地域内での医療機関連携、医師の個人的ネットワークによるところが大きかったが、個人の対応では限界もある。地方自治体等とも連携して広域搬送のネットワーク化を図る必要がある。また、最後まで搬送先が見つからず、困惑したのが平常時から不足している高齢者向けの介護施設や病院、精神科等である。高齢者等の要援護者については、阪神・淡路大震災以降、災害救助法に基づく福祉避難所が開設されるようになり、東日本大震災時には、仙台市が、最大37か所を開設して約260人を受入れ、陸前高田市では、福井県勝山市が全面支援し、福祉避難所を同市社会福祉法人の介護職員と運営した例などがある。石巻市でも、合同医療チームの働きかけで追加指定された福祉避難所もあったが、介護する家族と別れることや、自宅から遠いことなどを理由に入所を断る例も見られ、マッチングがむずかしかった。高齢者や乳児向けに別室を設け、保健師等を派遣したなど、「福祉的避難所」を開設した例が多く見られ、柔軟な対応が必要である。さらに、福島県の双葉病院と隣接する介護保険施設から患者等を広域避難させる途上で、約300人のうち50人が亡くなったという事例などは、関係者に衝撃を与えている。震災関連死は、東日本大震災では広範囲に認定され、今後、人数が増える可能性が高い。いかに震災や津波から死を逃れた人の生命を救うかも大きな課題であり、外傷系重症患者の緊急性と比較対象にはならないが、福祉領域と連携した広域搬送も検討課題であると言える。4-4日赤の総合的対応力の向上(1)地域防災力・ボランティアの育成及び民間との連携初期対応を充実し、長期継続体制を取るには、日赤関連職員の防災力向上だけでなく、地域防災力・ボランティアの育成を図る必要がある。初動の情報空白を埋め、日赤として独自の情報収集体制をとるため、情報モニターになるような日赤奉仕団やボランティアの組織化・活用等を図るなど、日赤の職員研修だけでなく、災害時対応を身につけた協力要員を幅広く育成する必要がある。例えば、日赤特殊奉仕団員には、赤十字飛行隊やアマチュア無線隊などが情報収集要員に含められており、支部の本部運用の情報支援をボランティアが行った事例や、物資の運搬等を手伝った例も見られる。さらには、ITのERUのように専門家集団の協力連携に踏50人道研究ジャーナルVol. 2, 2013