「人道研究ジャーナル」Vol.2

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「人道研究ジャーナル」Vol.2

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 2, 2013国際赤十字・赤新月運動の規約は、各国赤十字社が行動の独立性を保持しながら、他の赤十字の機関と協力することを優先すべきであることを規定している。したがって、政府とその国の赤十字社との間の緊密な関係の必要性と、赤十字社の独立性維持の必要性の間には、適当なバランスが必要となる。この独立性が完全に守られているかを評価するために、より明確な基準が必要である(5)。これら一連の決定をうけて、クリストフ・ラノールはIFRCの研究を行い、IFRCは報告書『人道分野における政府の補助機関としての各国赤十字・赤新月社』を2003年に出版、そのなかで政府と赤十字社の「バランスのとれた関係」を提唱した(6)。そして、2003年に開催された第28回赤十字国際会議決議1C13は、連盟の研究・報告を「歓迎」、「バランスの取れた関係」を「了知」するとともに、連盟に研究継続と2007年の国際会議への結果の報告を要請したのである(7)。さらにその後の赤十字国際会議でもこの問題は取り挙げられた。最近の例では、2011年11月にジュネーブで開催された第31回赤十字国際会議決議4が、「補助的役割の強化:より強い赤十字社とボランティアの発展のためのパートナーシップ」と題され、赤十字社およびその政府にたいして「バランスのとれたパートナーシップ」(以上、筆者訳)を要請したことが挙げられる(8)。同決議は、補助機関として国際人道法にもとづく義務の履行を行うことをまず挙げ、それに加えて「衛生および社会事業、災害対策および離散家族の再会などの関連した事業」(筆者訳)における役割についても挙げており、伝統的な補助機関としての役割以外にも範囲が及んでいる(9)。このように、赤十字の諸会議において決議がなされ、また、特に赤十字社の連合体であるIFRCが、この分野において研究を積極的に行っているのが、最近の動きである。次に、赤十字社の伝統的な役割である軍隊の衛生部隊の補助について考える。II.軍隊の衛生部隊の補助機関としての伝統的な役割1863年の赤十字規約は、赤十字に関する最初の文書として位置づけられるが、その第3条は、「各邦ノ中央委員ハ其国ノ政府ト約束シ其事業ヲ実施スル場合アル毎ニ必ス政府ノ之ヲ甘受スヘキヲ予定スヘシ」と定めている(10)。しかし、この条文は軍隊の衛生部隊の補助機関として赤十字社が積極的に政府と関係することを定めたものではなく、赤十字のそのような活動を認めるかどうかは、政府の判断にゆだねられた(11)。また、赤十字社の政府の補助機関としての役割も含めた、赤十字国際委員会(以下、ICRC)による赤十字社の承認の条件が定まったのは、19世紀終わりであった(12)。さらに、1864年のジュネーブ条約の採択に際し、赤十字社にあたる篤志救護団体の中立性を条約条文に明記するかについては非常に大きな議論がおこり、結局救護団体についての明文化は実現しなかった(13)。赤十字社設立当初はこのように、赤十字社のような救護団体が戦時救護を行うことについては議論がわかれていたが、1878年にフランス政府が「仏国陸海軍負傷軍人救護会」に軍隊の衛生事業を幇助することを認可してから、篤志救護団体にこのような役割を認めることが、各国にも広がっていった(14)。条約により赤十字社の条約上の義務が確認されたのは、海戦の分野が最初で、1899年の「「ジュネーブ条約」の原則を海戦に応用する条約」第2条が「公認セラレタル救恤協会」の病院船の尊重を定めたことによる(15)。そして、それまでの議論に終止符をうち、赤十字社の軍隊の衛生部隊の補助機関としての役割が登場するのは、1906年のジュネーブ条約第10条においてである(16)。第10条は以下のとおり定められた。本国政府ガ適法ニ認可シタル篤志救恤協会ノ人員ニシテ第九条第一項ニ掲ゲタル人員ト同一ノ職務ニ使用セラルルモノハ該項ニ掲ゲタル人員ト同一ニ看做サルベシ但シ該協会ノ人員ハ軍令ニ服従スベキモノトス(17)この条文は1929年に修正されたジュネーブ条約に基本的に引き継がれた(18)。そして、1949年のジュネーブ第一条約および第二条約は、この1929年のジュネーブ条約の規定をさらに引き継いだが、「各国赤十字社」を条文上で明示したことは大きな違いといえる(19)。すなわち、ジュネーブ第一条約第26条第1項は、以下のとおり規定する。各国赤十字社及びその他の篤志救済団体でその本国政府が正当に認めたもののうち第二十四人道研究ジャーナルVol. 2, 201397