ブックタイトル人道ジャーナル第3号

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概要

人道ジャーナル第3号

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 3, 2014験があり、その経験がある看護師が適任であろうと考えた。要請内容はいわき市の状況を把握し、保健サービス提供を迅速に実施したいと言うものであった。日赤看護大学と本社看護部(以後、日赤チームとるす)は、この要請に応え、平成24年1月31日から3月21日までの2か月間、日本赤十字社の病院勤務の看護師1名、大学の教員3名をいわき市に派遣した。この時点でいわき市には、県A保健所の出張所はなく、平成23年9月にいわき市へ県保健師2名が派遣され、その後、他県からの保健師、事務員などが補充された。平成24年1月からは順次、事務職および課長級の保健師が配置された5)。日赤チームは、県A保健所の保健師が出張している県の事務所に常駐し、県の保健師と共に保健サービス提供の体制を作ることを目的に活動した。双葉郡の町村の保健福祉に関する会議への参加、いわき市の保健福祉関係者へのヒアリング、双葉郡の各町村の保健関係者へのヒアリングを行った。この活動から明らかとなったことは、1被災した双葉郡は保健サービスを提供する単一の組織を構築しようとしているが、各町村の避難状況と対応に相違があることから短期間の組織作りが困難であること、2いわき市が主導して保健サービスを避難住民に提供するには、福島県とのこれまでの様々ないきさつと現状での関係から早急に行うことは困難であること、3県A保健所からの出張中の保健師の主導による保健サービス提供は、その準備状況から早急な対応は困難であることであった5)。日赤チームは、県A保健所の出張機関の組織化を図ることを第一目標として活動を開始し、この機関のチームビルディング、いわき市、双葉郡などの保健師の定期会議開催、組織図と役割の可視化、業務の明確化などを行った。2)日本赤十字社医療事業局看護部・日本赤十字看護大学によるいわき市に避難した浪江町民への健康支援活動概要?健康支援事業開始に至る経緯厚生労働省からの依頼を受けた支援活動から、明らかになったことは、被災した県や自治体が避難住民への保健サービス提供を早期に実現することは困難であるということであった5)。なぜなら被災した町村は、役場の職員自身も被災者であり、発災からほとんど休暇を取ることもなく住民のために家族や自身のことは後にして仕事をしていた。このような環境下で役場職員や保健師が、県内外の他の町村に避難した住民全てを把握することはまず不可能であり、さらに被災者の保健サービスについて検討する余力はなかった。被災町村の中で、特にいわき市内での保健サービス提供に苦慮していたのは浪江町であった。浪江町は二本松市に役場を移して自治体業務を行っていた。いわき市内には仮設住宅は全くなく、福島市、二本松市、会津若松市などと同様に避難住民数が多かった。特にいわき市内への避難住民は、殆どが借り上げ住宅に居住し、市内全域に散らばり、住民把握や支援などが難しい状況であった。これに対し、浪江町は、各地に保健師を配置できるだけの保健師数はなく、雇用しようにも希望者がいない状況があった。県A保健所などに依頼するしか方法がなかったにも拘らず、いわき市では県A保健所からの支援が円滑に行われていなかった。このため住民の安否確認や健康状態の把握が全くできておらず、避難住民の交流の場も作れない状況があった。この状況について、日赤チームは厚生労働省からの依頼による調査後も、この原発事故による避難住民について、何等かの支援ができないかを模索をした。支援に関する検討を始めた頃、日赤チームに対し、浪江町よりいわき市内の避難住民に関する安否確認や健康状態の把握など健康支援に関する依頼があった。?活動概要日本赤十字社に対する浪江町からの依頼により、日本赤十字社が事業資金を提供して日赤チームが健康支援事業を行うこととなった。事業企画・運営は日赤チームが行い、現地に事務所を設置して活動を始めた。人材は、本社看護部が各赤十字病院からの看護師を派遣し、日赤看護大学が教員などを派遣した。この活動は第一期事業として平成24年10月1日から平成25年9月30日まで行った。事業内容は、健康調査として浪江町から依頼があった2,160人を対象に、安否確認と健康調査を電話または家庭訪問にて実施した。電話または訪問時に避難住民から話を直接に聞きくことによる心のケア、避難住民が健康に生活するためのニーズの調査も併せて行った。住民の健康調査を通し、周辺住民との軋轢や生活環境と対人関係の変化による孤立化や引きこもり傾向が明らかとなった。また長期避難と将来について見通しが立たないことによる不安やストレス、家族と離ればなれになったことによる育児の孤独化が確認され、相人道研究ジャーナルVol. 3, 2014 103