ブックタイトル人道ジャーナル第3号

ページ
106/288

このページは 人道ジャーナル第3号 の電子ブックに掲載されている106ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

人道ジャーナル第3号

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 3, 2014談できる人がいないなどの訴えが課題として取り上げられた。また睡眠障害、運動機能の低下、血圧の上昇、怒りや不安感などの症状を訴える被災者が多かった。日本赤十字社の92の病院からは、1年間に32施設34人が、それぞれが2週間から1ヵ月の期間、看護師を派遣した。1年間の本事業に関する日本赤十字社や浪江町からの評価を受けて、平成25年10月1日から、財源を新たに確保し、第2期事業が継続中である。2.考察1)日本赤十字社が率先して行う支援活動今回のいわき市における避難住民への支援は、県や国では迅速に対応できない状況下での実施であった。通常であれば、行政が行うべき業務であったと考える。しかし、県、市町村には、事前準備がないことや行政単位間の話し合いなどが必要であったこと等により、被災者への保健サービス提供実施までには長時間を要する事例となる可能性が大であった。このような状況下においての支援は、災害救援や復興支援が責務となっている日本赤十字社の国内外での救援活動・復興事業に関する組織内経験値が活かしやすいと考えられる。加えて、中長期の避難生活では今回の健康調査からも言えるように潜在する健康への危機は、平常時よりは高い状況にあると考える。行政や他の組織ではできない、大規模かつ継続的・長期的人的支援を必要とする状況、特に被災住民の健康や安全が脅かされている時にこそ、日本赤十字社は率先して支援活動を行うべきことであると考える。2)日本赤十字社の看護師による中長期の災害看護日本赤十字社は国内に病院や教育施設を有し、多くの看護師が勤務している。また、赤十字の病院や教育機関において、災害看護は教育や研修にとり入れており、歴史もある。実際に災害が起きると、これらの施設から日本赤十字社の看護師(以後、日赤看護師とする)として被災地に行き災害看護を行なっている。近年の大震災においては日赤看護師による中長期における継続的な被災地での支援活動は行われてこなかった。これまでの日赤看護師の災害時の活動は、急性期における救護班での診療介助やこころのケア班での精神面に関するケアが主であった。一方、中長期においても日本の災害は比較的限られた地域の中で起こり、被災行政機能が弱体化しても周辺の自治体や県が支えることができる状況にあったため、日赤看護師が支援活動に行く必要はなかったと考える。しかし、東日本大震災においては、被災範囲が広大かつ甚大であり、特に福島の原発事故に代表される特殊災害が併存していること、行政の看護職も被災者であること、復興に時間を要していること、避難住民の居住地も決まっていない状況など、多面的要素から日赤看護師および教員の経験と知識、組織力を活かす必要性があったと考えられる。東日本大震災を例とする災害の場合、発災から数か月を過ぎる頃には、病院での救命活動や傷病者の医療と看護は通常の診療レベルへと落ち着いてくる。しかし、大規模災害において、半年、1年程度の期間で、すべてが災害前の状況に戻ることは不可能であり、被災者は、その後も避難生活を余儀なくされている。災害前とは異なる生活環境下で心身の健康保持は難しく、また被災地域が広域に及ぶ場合は行政単独での被災者への保健サービス提供には無理がある。たとえ医療機関への受診者数が逓減し、一見状況が安定しているように見えても、被災者は保健サービスとのアクセスを絶たれたまま、避難地域で健康を保持することが難しいままに置かれている可能性が生じるのである。このような大規模災害による避難が長期化し、行政だけでは対応できない状況において、被災者が保健サービスを適切に受けられるよう行政と協力しながら支援することこそ、日赤看護師の災害看護の重要な役割ではないかと考える。日本赤十字社の病院、教育施設は各県や地域にあるので、被災県または隣県の地域的特性をよく理解した災害看護が可能である。現在進行形の課題として、日赤看護師による災害看護が、急性期だけにとどまることなく、赤十字の組織力を活かして地域と連携し、より効果的な中長期の災害看護を行うことが必要であろう。終わりに近年本邦での大規模災害は毎年のように発生しており、南海トラフ巨大地震や首都直下型の地震なども予測されている。日本赤十字社は、これまでの国内外の経験の蓄積を活かして、被災者支援に関する国民の期待と信頼に応えるために、従来通りの支援活動をより発展させた多様な活動、加えて赤十字にしかできない104人道研究ジャーナルVol. 3, 2014