ブックタイトル人道ジャーナル第3号

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概要

人道ジャーナル第3号

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 3, 2014表者会議決議と国際司法裁判所勧告的意見の目的は異なり、その国際法的観点からの重要性には格段の相違があるので、比較にさしたる意味はないが、決議が自衛のようなjus ad bellumからの評価を付加しなかったのは、国際人道法平等適用を貫徹したすっきりした構成である。(3)完全非両立の断言回避のもとでの不使用要請2011年決議1本文第2項は、核兵器使用が国際人道法規則と両立するのは「困難である」ことを認める。本項は、あらゆる場合に核兵器使用が違法で、国際人道法諸規則と完全に両立しないとまで断言していないと思われる。第2項英仏語原文文理解釈からは、そのように理解するのが妥当であろう。また、本文第3項前半との論理的関連性からも第2項において完全非両立をいうのは不自然であるということが補足的に指摘できる。第3項前半は、各国の核兵器使用の法的評価の相違にかかわらず、核兵器不使用を求める。第2項で国際人道法と核兵器使用の両立不可能、すなわち完全違法説採用を明言すれば、次の第3項で核兵器使用法的評価如何にかかわらず不使用を確保すべきという箇所の意義が薄れるかもしれない。第2項で国際人道法との完全非両立をいうと合法の余地はなくなるから、第3項がいうような各国の法的評価が様々にありうることを決議としては公然とは許容出来なくなるようにも思われるのである。完全非両立であれば、使用が違法なので当然に不使用の誓約を要求するという表現振りがむしろ自然である。少なくとも決議のなかでは論理的一貫性を保とうとするのであれば、第2項では完全非両立断定の回避のほうがよりよい(19)。もっとも、決議第2項が完全非両立の立場をとるとし、代表者会議がもとより各国を拘束しえないから同会議見解とは別に諸国が合法説をとってもいたしかたないとしつつ、それでも不使用は求めるという解釈はありえないわけではない。この箇所とほとんど同じ内容を持つ2010年ケレンベルガー赤十字国際委員会総裁声明その他関係文書における核兵器の特殊性の強調を併せ考えるとそのようにも思える(20)。しかし、これでも第2項の「困難」なる文言の文理解釈を覆すには不足である。文言の通常の意味と異なる解釈をとるためにはよほど強い論拠がなければならず、これは、条約解釈と基本的に変わらない。第2項が完全非両立を意味してはいないという方がより妥当である。第3項の後半は、使用禁止条約と軍縮条約の誠実な交渉と締結完遂を求める。勧告的意見ではここは軍縮条約しか触れず、使用禁止条約には言及していなかった。核兵器完全違法説をとらないのであれば、使用禁止条約締結を目指すことは別段奇妙ではない。使用禁止規範成立前の不使用誓約は、使用が合法である場合のその使用の自由の放棄で説明がつき、慣習法上の禁止がなくとも禁止条約に入ることも当然できる。国際人道法規則と核兵器使用の完全非両立を決議1にあっても明確に述べることができなかったことは、法的評価の分裂的状況からしてやむをえない。そうであれば、不使用誓約要請しかないと判断したことも理解できる。しかし、これは、使用が合法である場合がなお残る旨主張し、そのときの不使用は法的信念からではなく自制にすぎないということを決議1は否定しないということである。不使用を確保しようとしながら、使用完全禁止慣習法規則成立を妨げる要素を決議1は皮肉にも抱え込むことになった。2.核兵器使用に関する見解の対立(1)合法性評価における主要論点決議1による国際人道法と核兵器使用の完全非両立断言の回避は、国際人道法上の見解の対立からである。そこで、核兵器使用法的評価に関してどこまで一致があり、どこからそれがないのかを確認しておきたい。なお、この評価を巡って代表者会議等で実質的で詳細な法的議論があるわけではない。代表者会議等では、国家実行や判例学説等を認識した上で決議の文言について議論がなされるに通常はとどまる。核兵器使用評価は、以下の順番でなされよう。運河開削その他の土木工事等のためのいわゆる平和目的核爆発ではなく兵器としての使用であるから(21)、戦争や武力行使そのものの合法性を判断するjus ad bellumからの評価が最初に必要である。これは、国際人道法とは別の国際法規則群であって、いつどのような範囲で武力を用いうるかに関する規則群である。これらは、国際法の他の分野と同じく条約と慣習法のかたちで存在する。条約であればその締約国のみを拘束するが、慣習法ならば全国家が拘束される。国連憲章第2条4項(武人道研究ジャーナルVol. 3, 2014 9