ブックタイトル人道ジャーナル第3号

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概要

人道ジャーナル第3号

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 3, 2014態の変化と苦痛の緩和に配慮しながら、緊急治療群(赤)、準緊急治療群(黄)の傷病者を該当する救護所(赤・黄)、死亡群(黒)の傷病者を搬送場所(黒)へ担架で搬送した。また待機群(緑)については独歩或いは付き添いで救護所(緑)まで搬送した。各救護所(赤・黄・緑)の応急処置班は搬送された傷病者の状態に応じ、包帯法と固定を実施した。また死亡群の傷病者に対しても、身体を毛布で覆い、尊厳の確保に配慮した。午前中、本訓練と並行する形で、炊き出し班は災害用移動炊飯器を用い、訓練参加者全員分の非常食セット(ビニル袋に保存されたお米)を調理した。また、避難者支援班は、高齢者をトイレの近くへ移動したり、風邪をひき咳嗽の激しい避難者にマスクの着用を促す等の支援を行った。屋内訓練では、秋田県キャンプ協会会員、日赤秋田県支部職員、本学教員の指導の下、学生はロープワーク、救急法、避難所での生活支援技術を習得した。Ⅲ.成果と今後の課題過去5年間の活動から、災害救護訓練の成果と今後の課題が明らかになってきている。本節では、それらのうち主要な点について指摘しておく。1.成果1つ目の成果は、災害看護や災害福祉に対する学習意欲の向上である。本学の災害救護訓練は、高学年になるにつれて難易度の高い役割を担当することになる。例えば、看護学科1年生は主に傷病者役や炊き出し班を担当するが、3年生になるとトリアージ班を担当する。訓練中、先輩の行動を観察することができ、次年度、自分がどのような活動を行うのかある程度予想できるため、その活動に関連した学習を事前に行う動機付けとなっていると考えられる。また、高学年になるほど、より高度な知識と技術の習得が要請されるため、日常的な学習の積み重ねの重要性を認識し、不足している知識や技術を向上させようと努めると考えられる。さらに、4年間で幅広い活動を体験することで自己の成長を実感することができることも学習意欲の向上に繋がっていると推察される。2つ目の成果は、状況判断能力の向上が必要であるという認識を学生に与えたことである。救護活動では、傷病者の状況や支援者の能力に応じた判断が求められる。学生は、訓練を通し、傷病者の重症度・緊急度をアセスメントする能力が不足していると、オーバートリアージやアンダートリアージに陥ることを経験した。また、人員と物品が限られた中で、搬送や応急処置を効率的に実行する方法について考える機会を得ることができた。このように、災害救護訓練は学生に自己の判断が適切だったのかを省察する機会を与えた。3つ目の成果は、円滑な救護活動のためには支援者間の連携が重要であるという認識を学生に与えたことである。本学では、2日目の本訓練の後に、学生が自己の訓練をフィードバックする時間を設けている。このフィードバックにおいて、1・2年生の段階では支援者間の連携に言及することはほとんどいないが、3・4年生になると、救護活動中の支援者間の情報共有、声掛け、チームワーク、リーダーシップ等の重要性に気づけるようになる。このように、高学年になるにつれ、学生は災害救護活動に必要な連携の重要性を認識するとともに、ヒト、モノのマネジメントへの理解を深めていく傾向にあるといえる。2.今後の課題本学の災害救護訓練は、以上のような成果をもたらしたが、いくつか課題も残されている。1つ目は一部の学生が緊張感がなく、時間を厳守できず緩慢な行動をとっていたことである。これにはいくつかの要因が考えられる。スケジュールの観点では、トリアージ開始から応急処置終了までの一連の活動が終了時間よりも前に終了し、待ち時間が発生する場合があり、それが学生の緊張感を削ぐ一因になったと考えられる。また、リアリティのある訓練を実施するために、傷病者にメイキャップを施すとともに外傷モデルキットを使用しているが、傷病者が学生ということもあり、緊張感を維持しながら訓練を継続することが困難であったと考えられる。今後は、待ち時間を短縮できるようスケジュールを調整するとともに、地域住民から傷病者役を募集する等の工夫が必要であろう。2つ目は、災害救護訓練の地域社会への還元である。内閣府によると、本学が位置する秋田県の高齢化率は30.7%で、全国で最も高い(4)。従って、災害時、どのように地域社会の高齢者を災害から守る112人道研究ジャーナルVol. 3, 2014