ブックタイトル人道ジャーナル第3号

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概要

人道ジャーナル第3号

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 3, 2014仮に軍事目標のみをその攻撃の目的としても、原子爆弾の巨大な破壊力から盲目爆撃と同様な効果を生ずるものである以上、広島、長崎両市に対する原子爆弾による爆撃は、無防守都市に対する無差別爆撃として、当時の国際法からみて、違法な戦闘行為であると解するのが相当である」とされ(27)、軍事目標主義適用のある無防守地域たる広島長崎両市内軍事目標への核攻撃であったとしても、過度の付随的損害発生からして違法となると判断した。他方、100キロメートル四方にわたり無人で且つ民用物であるような施設のない砂漠に布陣する戦術核ロケット1個大隊上空100メートルで1キロトンの核兵器を爆発されたら付随的損害はないとの指摘は可能かもしれない。この際の放射線による長期に亘る環境損害については、砂漠という環境自体を民用物と解しても、有体物損傷がない場合を付随的損害と認識するかでそもそも争われる。これが肯定的に回答されても、核ロケット部隊破壊から得られる軍事的利益と比べて当該環境損害が過度かという困難な評価をしなければならない。敵核ロケット部隊破壊による自国核攻撃損害回避までも軍事的利益として算入すると、軍事的利益が大変に大きくなるから環境損害を付随的損害としてもそれは過度ではないと主張されてしまうかもしれない。実際、1996年国際司法裁判所勧告的意見にシュウェーベル裁判官が付した意見は、核ミサイル発射直前か又は連続発射中の敵戦略ミサイル潜水艦に対する核爆雷投射に言及しており、そこでは文民損害が生じないであろうこと、及び核爆雷爆発で海洋放射能汚染が生じても、それは潜水艦発射核ミサイル攻撃で目標地域に発生するであろう放射能汚染より小であるから、「均衡性(proportionality)」基準に合致しようと述べている(28)。目標区別原則からして核兵器使用が常に違法であるとの断定は、かくのごとく相当に困難であるとする見解がある(29)。目標区別原則からは、核兵器使用は害敵方法の規制問題として処理でき、明示的使用禁止規定のない他の兵器と区別する必要はなく、従って、害敵手段の問題ではないということもこの見解からすればありうる。(3)過度の傷害又は無用の苦痛を与えてはならないの原則敵の戦闘員は、国際的武力紛争中常に人的な攻撃目標となり、敵対行為に直接参加する文民は、そのような参加の間のみ人的目標になる。これらの目標に対する攻撃は違法ではないが、これらの人に過度の傷害又は無用の苦痛を与えてはならない。この慣習法原則も全ての兵器に適用され、ハーグの陸戦規則や第一追加議定書その他の条約でやはり法典化されている(30)。しかし、目標区別原則の場合に同じく核兵器を名指ししてその使用がこの原則に反するとする条約規定はない。いわゆるダムダム弾ではなく焼夷効果もない小銃弾であっても、投降意思を表明していないが負傷して完全に行動不能の敵戦闘員に重ねて射撃を加えれば、過度の傷害又は無用の苦痛を与えることになる。しかし、それをしないで戦闘中の敵戦闘員だけに向けることも小銃は可能である。害敵手段として小銃は違法とされないのは、この原則の遵守が可能であるからである。核兵器について同じことがいえれば、小銃使用が違法でないのと同じ意味で核兵器もそうなり、害敵方法の問題にとどまる。この原則からする核兵器の評価も分かれる。核兵器は、熱線、爆風及び放射線を出す。通常弾頭からも前二者は放出されうるから、それを捉えて核兵器の違法性を主張するためには、核兵器における前二者放出に関する特異性が必要である。小型核兵器であっても熱線が強烈であり、激しい熱傷が常に生じるのであれば、害敵方法から害敵手段の問題に転化させて、常に使用が禁止されるという議論が可能となる。この種の議論がより容易となるのは放射線についてで、通常兵器は、即時に人体に影響が生じるほどにはこれを放出しないから、核兵器の特徴であるといえる。目標区別原則との両立性の問題は、破壊の範囲で判断され、核兵器も大小いろいろあるから、通常兵器との差別の強調は困難である。他方、過度の傷害又は無用の苦痛を与えてはならないの原則は、核兵器についての特殊性抽出が特に放射線について可能である。しかし、傷害と苦痛が何と比べて過度で無用であるのかという点で争いが残る。1868年サンクトペテルブルク宣言が示すように、「戦時において諸国が達成しようと努める唯一の正当な目的は、敵国の軍事力の弱体人道研究ジャーナルVol. 3, 2014 11