ブックタイトル人道ジャーナル第3号

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概要

人道ジャーナル第3号

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 3, 2014化であること」、「その目的を達成するためには、できる限り多くの者の戦闘能力を奪えば足りること」、「すでに戦闘能力を奪われた者の苦痛を無益に増大させ、またはその死を避け難いものにする兵器の使用は、この目的の範囲を超えること」を想起すれば、戦闘の能力及び意思を奪う以上の傷害と苦痛であると考えるのが適当と思料される。しかし、過度又は無用かは兵器の軍事的な効果との関連で評価されるべきとの古典的な議論がある。軍事的効果が大であれば、過度な傷害や無用の苦痛とされる範囲は縮減するという考え方である。最近では小銃に使用されるような小口径高速弾を巡ってこれが議論となった。すなわち、ダムダム弾は、過度の傷害又は無用の苦痛の発生の故にその使用が少なくとも国際的武力紛争では禁止されるが、それと同様の対人効果を持つとしても小口径高速弾は、歩兵の携行弾数増という軍事的な利益のため使用禁止規範が成立しなかったとされているのである。さすれば、核兵器の破壊力がもたらす大きな軍事的利益が過度や無用さの評価に影響することになる。傷害や苦痛の評価が軍事的利益の関数であるとの立場をとれば、さらにその利益がシュウェーヴェル裁判官指摘のように核攻撃回避から得られる利益も包含するのであれば、ここからの違法性評価は一層困難となる。これに対しては、先述の通り、戦闘員単位で考えてそれを戦闘外に置くに必要な傷害と苦痛という固定的基準の主張がなされる。国際司法裁判所勧告的意見多数意見は、意外にもこれを展開していないが、下田事件判決ではこれに依拠していると思われる箇所がある。同判決は、サンクトペテルブルク宣言関連の箇所で、「非人道的な結果が大きくとも、軍事的効果が著しければ、それは必ずしも国際法上禁止されるものとはならないとしている」との学説を紹介し、その上で既存条約を分析しつつ「毒、毒ガス、細菌以外にも、少なくともそれと同等或はそれ以上の苦痛を与える害敵手段は、国際法上その使用を禁止されているとみて差し支えあるまい」と一定の固定的基準の存在を認めている(31)。これは、既存条約の類推適用ではなく、慣習法上の基準の抽出に既存条約を使ったというべきであろう。そして、「原子爆弾のもたらす苦痛は、毒、毒ガス以上のものといって過言ではない」と判示した(32)。下田事件判決は、広島長崎級の都市に10から20キロトンの核爆弾を投下した場合であって当然には判決を一般化できない。しかし、この固定的基準設定の議論は、一定の有効性を持つように思われる。目標区別原則についても、そしてこの過度の傷害や無用の苦痛を与えてはならないという原則に関しても見解は対立している。代表者会議が対立的な見解の一方をとる旨明快に述べていない以上、2011年決議1も見解分裂的な状況を前提に解釈されなければならないであろう。またそもそも、決議1本文第2項は、国際人道法と核兵器使用の完全非両立断定を回避したとその文言から解すべきである。決議1本文第2項は、多分、勧告的意見で国際司法裁判所が「核兵器使用がいかなる状況においても武力紛争に適用される法の原則及び規則に必然的に反すると確信をもって結論するに足る十分な証拠を持っていないと思料する」としたのと近い意味を持つのであろう(33)。3.核兵器使用と違法性阻却(1)決議1の立場核兵器使用が全ての場合で違法であるわけではないとの見解に立てば、核兵器は害敵手段としては禁止されない。しかし、この見解をとるとしても、他の全ての兵器と同じく害敵方法の規制規則に服するから、その二大原則である目標区別原則及び過度の傷害又は無用の苦痛を与えることの禁止原則に照らして違法となる核兵器使用も当然にある。そこで次の問題は、核兵器が害敵手段として常にその使用が違法であっても、また害敵手段としては違法ではなくその使用方法によっては違法となりうるとしても、その違法性を阻却する事由があるかである。国際司法裁判所勧告的意見は、特別規則の存在故にか、戦数論の援用であるのか、又は違法性阻却事由を想定したかは判然としないが、主文E項後段で自衛の極限状態という事情が国際人道法の適用を左右しうることを積極的には否定はしなかった(34)。代表者会議2011年決議1本文第2項は、違法性阻却事由には触れないし、緊急性に依拠する他の特殊理論にも言及していない。決議第3項前半は、「このような兵器の合法性に関するその見解の如何にかかわらず、核兵器が再び使用されないことを確保すること」を要請しているだけであ12人道研究ジャーナルVol. 3, 2014