ブックタイトル人道ジャーナル第3号

ページ
140/288

このページは 人道ジャーナル第3号 の電子ブックに掲載されている140ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

人道ジャーナル第3号

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 3, 2014リニューアルされた国際赤十字・赤新月博物館を訪ねて日本赤十字広島看護大学村田美和1.国際看護学演習としての訪問2013年は、赤十字思想誕生150年目にあたる記念すべき年である。世界中でイベントが企画され、ジュネーブの国際赤十字・赤新月博物館では22ヵ月かけて改修されて、2013年5月にリニューアルオープンとなった。日本赤十字広島看護大学は、2009年よりソルフェリーノやジュネーブの国際赤十字関連施設や国際機関を訪問し、その役割や活動を理解し国際活動における看護活動の理念・方法について自己の考えを深めることを目的に国際看護学演習を実施している。本年、9月3日に学部生らと共に博物館を訪れることができた。ここに博物館の紹介をかね、学びを報告したいと思う。2.テーマ「The Humanitarian Adventure」と3つのブース正面玄関前には、人権を抑圧された人々の苦しみを表現した、目隠しに後ろ手に縛られた人間の彫刻像が並んでいる。赤十字と赤新月の大きな2枚の旗がその苦しみを覆うかのように掲げられていた。新しい館内は「The Humanitarian Adventure」をテーマに3つのブースに分かれ、各ブースは「The witness」として当事者の映像が映し出され、対面すると体験を語りかけてくる。その後に赤十字の活動の詳細が紹介され、人道の意味や活動を考える仕掛け作りがしてある。第1番目は「Defending Human Dignity」のブースである。印象深かったのは、中央に巨大な足のオブジェがある部屋であった。白い足が踏みつけている写真には首輪をつけられた奴隷、原爆で焼け野原になった街、すし詰め状態の収容所、地雷で片足を失った親子、銃を持った少年兵など人命と尊厳を踏みにじった歴史が次々と描き出される。その部屋にはスイス連邦公文書館から借り受けている1864年のジュネーブ条約原本も展示されていた。今や189か国に及ぶ世界的に展開する赤十字の活動がこの文書から始まっているのだ。武力紛争の形態の変遷に合わせジュネーブ条約も適用範囲を拡大すべく進化を続けていること、人間の残酷な側面と普遍的な人道活動、赤十字の絶え間なきチャレンジについて学ぶことができた。また、赤十字職員の刑務所訪問で、人道的扱いを受けることができた囚人から赤十字職員への贈り物が展示されていた。石鹸や木片などを工夫して赤十字やハートなどを入れこんだギフトから、受けていたであろう人権を無視した残虐な行為とそれから解放された囚人たちの安堵感と赤十字への感謝の思いが伝わってきた。2番目は「Restoring Family Links」のブースである。入り口には金属のチェーンが暖簾のように幾重にもぶら下がっており、家族の堅い繋がりを意味するそうである。ここでは災害や紛争で分断された家族の絆を紡ぐ赤十字の活動が紹介されている。赤十字通信は有名であるが、現在はトレーシングにITが駆使されているそうだ。部屋いっぱいの書棚の赤十字通信の手紙の束、天井まで隙間なく掲示された不安で泣きだしそうな子供たちの写真には圧倒される。人間は愛されているという安心感が自信につながり他者をも愛することができるという。それは孤独感や無力感などの苦痛を軽減すると思われ、今回私たちが目にした手紙や写真はその役割を果たした証だと感じた。第3番目のブースは「Reducing Natural Risks」で自然災害において人命をいかに守るかというコンセプトであった。資金面でも、その効果からも防災・減災対策の重要性が説明されていた。サイクロンの防災・減災対策のシミュレーションゲームではマングローブの植樹や物資の貯蔵、避難訓練や人材育成など対策を立てて最終的に何人を救えたのか数字で結果が出て、楽しく学べるようになっている。また、バングラデシュのハリケーン対策やブラジルの衛生的なトイレ設置によって感染症が減少したという、コミカルな3D動画は目をひく。自然災害時に多くの尊い人命を救うためには日常からの草の根的な地域住民とともに備えを行う赤十字の活動の重要性を学ぶことができる。このブースではまた復興期に入っても常に被災地の状況を発信し続ける必要性も私たちに求められていると感じた。138人道研究ジャーナルVol. 3, 2014