ブックタイトル人道ジャーナル第3号

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概要

人道ジャーナル第3号

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 3, 2014る。違法性阻却事由たる戦時復仇の場合も含めて使用禁止を導き出したい場合、「いかなる場合にも(in allcircumstances)」といった文言を足がかりにすることがある。化学兵器禁止条約第1条1項柱書のこの種表現については、起草過程での了解と併せてではあるが、戦時復仇のような違法性阻却事由を援用しての逸脱もできないと解する。決議1起草者は、そうした文言の使用法を承知しているはずであるがそれを採用していない。単に「このような兵器の合法性に関するその見解の如何にかかわらず」(下線追加)としているから、核兵器使用が違法である場合の違法な使用についてその違法性を阻却する事由を考える前の段階に敢えて留まっている。決議本文1第1項の核兵器使用阻止の箇所に読み込まれているというやや無理というべき解釈をとらないのであれば、核復仇について決議1は、意図的に沈黙していることになる。(2)戦時復仇戦時復仇とは、敵が国際人道法に違反した場合で当該違反を防止抑圧する手段が他にないときには、当該違反に均衡した違反を敵に対して行うことをいい、その場合にはこちらの違反行為の違法性が阻却される。国際人道法は、戦時復仇を一般的には禁止していない。そのことは、第一追加議定書が戦時復仇が禁止される場合を特定し個別的に定めていることからも示される。特定的禁止がなければ条約上も慣習法上も戦時復仇が許容される。また、「いかなる場合」にも条約規定遵守を要求する条文を条約上の戦時復仇包括的禁止と読む解釈も一般的では決してない。報復及び復仇の国際法上の相違を承知した上で核復仇という表現を用いるのであれば、それは、核兵器による戦時復仇を指す。核兵器使用が合法である状況では戦時復仇を援用する必要がない。核兵器使用が常に違法であるか又はそうでなくとも使用方法次第で違法になるのであるなら、そのような場合における使用を正当化しようとすれば普通は戦時復仇として説明することになろう。こちらが対都市核攻撃を受けた際の敵の都市への核兵器による反撃は、国際人道法上はこれが援用され、敵都市への核攻撃は、目標区別原則から明らかに違法であるが戦時復仇であれば違法性が阻却される。しかし、戦時復仇は、先行する敵の違法行為に責任の全くない敵の文民等に向けられ、反対復仇も招くので、これを全面的に禁止すべしとの主張は根強い。第一追加議定書戦時復仇禁止規定はこうした議論を踏まえ、敵領域内にある敵の文民や民用物その他に対する戦時復仇を広範に禁止した。第一追加議定書が核兵器使用にも適用されると、その戦時復仇禁止規定から文民又は民用物に対する核復仇は議定書違反を構成する。但し、第一追加議定書戦時復仇禁止規定に留保を付する国は、北大西洋条約機構諸国に見られる(35)。慣習法が戦時復仇を許容しているから、核復仇実施上の障害は条約上の禁止規定のみになる。ジュネーヴ諸条約戦時復仇禁止規定は、捕虜や占領地住民といった一方当事者の権力内に陥った他方当事者の国民に適用されるが(36)、自分が捕まえた敵捕虜への核復仇なぞありえない。結局実質的には、核復仇が許容されるかは、敵領域内の敵の文民及び民用物への戦時復仇を新たに禁じた第一追加議定書の適用排除ができるか次第である。英仏は、同議定書で新たに設けられた規則の核兵器への不適用宣言及び同議定書戦時復仇規定留保という核復仇の余地確保のため二重の防衛線を設定している。なお、東アジア諸国及び露は、全て第一追加議定書の締約国である。このうち日本が一番遅れて締約国になり2005年から日本について同議定書が発効した。それまでに東アジア諸国のいずれかと日本との間に武力紛争が発生していたら、日本が非締約国であるという理由だけで同議定書の適用はなかったことをこれは意味する。米は今でも締約国ではない。その日本は、第一追加議定書戦時復仇禁止規定に関してはいかなる宣言も留保も付せず、核兵器使用への議定書適用を否定してもいない。従って、日本の文民や民用物が核兵器で違法に攻撃されても、通常兵器によるのであれ戦時復仇を議定書締約国たる敵の文民や民用物に日本は向けることはできないのは明らかである。しかし、日本が核兵器による違法な都市攻撃を受けた場合に、日米安全保障条約に基づき米が敵都市に対して核兵器を戦時復仇として投射できるかが問題として残る。米が違法行為の被害国ではない場合にも米が日本のために戦時復仇としての核復仇が可能かという論点である。いわゆる平時復仇としての対抗措置が直接の被害国しかとりえないとした先例はある(37)。jus ad bellum上まさに自国への武力攻人道研究ジャーナルVol. 3, 2014 13