ブックタイトル人道ジャーナル第3号

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概要

人道ジャーナル第3号

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 3, 2014撃と同視して反撃を開始するのが集団的自衛であるからといって、国際人道法の領域でも日米がその適用主体として一体となり(38)、日本に向けられた違法行為に米が戦時復仇で応えるという構成は直ちには首肯できない(39)。(3)その他の事由核兵器使用の違法性阻却事由としては、国際人道法違反には国際人道法違反で応える戦時復仇以外の事由は意味あるものとしてはほとんど考えられてこなかった。jus ad bellum違反に対し国際人道法違反行為で復仇することも認められないとするのが一般的見解である。従って、第二次大戦において日本が違法に戦争を開始したという理由のみでは、広島及び長崎に対する無差別的核攻撃の違法性を阻却することはできない。但し、国際人道法差別適用をjus ad bellum上の理由から承認するこの考え方は、底流としては残っており、希にこれが表明される。ローターパハトは、侵略者の世界制覇の企図を挫いて社会の究極的価値を防護するための緊急の事態にあって、自己保存の至上の権利行使として核兵器の使用が国際法上の禁止規範にもかかわらず許容される旨その国際法教科書で述べたことがある(40)。この際には、定評ある教科書にでてきたから話題にはなるが本来こうした議論は一顧だにされないともいわれた(41)。こうしたいきさつからして、1996年国際司法裁判所勧告的意見主文E項後段で、自衛の極限状態ではE項前段でいうように核兵器が国際人道法に一般には反するか否か裁判所は判断できないとされたことは、その解釈にさまざまあっても、jus ad bellumの要素が影響するとされたことは大きな驚きであったのである(42)。おわりに2011年決議1は、代表者会議決議であり、諸国に対する拘束性はもとよりなく、慣習法形成の観点からの意義もそれ自体にはほとんど認められない。しかし、決議1の内容が国家実行に影響を与えるようになれば、同決議における国際人道法と核兵器使用の完全非両立を断言しないもとでの不使用誓約の意味が改めて問われよう。ケレンベルガー総裁の「人道的組織としての赤十字国際委員会の立場は、純粋の法的分析を超える、いな超えなければならない」(43)という考え方に沿ったくらいであるから、決議1は、法理論上はすっきりしないのである。国際人道法からすれば、二つの方策しか理論上はない。第一は、国際赤十字赤新月運動が長年指摘してきた核兵器の特徴を一層強調し、かかる性格の兵器使用が合法である余地はないと断言する方法である。これは、禁止される害敵手段であることを明言する方式である。第二は、核兵器が国際人道法の規則に従うと述べるだけで、害敵方法の問題に局限するやり方である。すなわち、害敵手段として禁止されるわけではない他の全ての兵器に同じく、目標区別原則及び過度の傷害又は無用の苦痛を戦闘員等に与えてはならないの原則から評価する方法である。なお、いずれの方法でも戦時復仇の問題は別個にある。通常兵器に適用される国際人道法が核兵器にも適用されることは最早明らかで、少なくとも第二の方法が可能であることを誰も否定しない(44)。せいぜいが第一追加議定書の適用排除宣言の効果といった個別条約の適用問題が残る程度である。他方、第一の方法を指向するならば法的見解が大きく相違するから、不可避的に論争になる。決議1は、全ての場合における核兵器使用の違法性を指摘した上での第一の害敵手段としての使用禁止の立場をとりたかったのであろうが、それを断言できていない。そのため第二の害敵方法規制として他の兵器と差別しない方式で評価するから、使用が合法の場合をアプリオリには排除できない。そのため、不使用の任意的な誓約を経て、合意による新たな完全使用禁止規範創出と軍縮完遂を目指す。これは、現行国際人道法の評価からの離脱に同じであり、不使用国家実行が慣習法の基礎にもなりにくくなる。加えて、国際人道法の公平で中立的な履行確保の実績で信頼をえてきた赤十字国際委員会はじめの赤十字赤新月運動関係機関が軍縮問題にまで踏み込むことは、信頼の喪失につながることも懸念される(45)。決議1の方向性は、他には戦術的には考えられないという意味ではやむをえないものであるが、大きな問題を内包する。日本赤十字社が関係機関と連帯し、決議1実施のため法的議論を超越して前進することもまた理14人道研究ジャーナルVol. 3, 2014