ブックタイトル人道ジャーナル第3号

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概要

人道ジャーナル第3号

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 3, 2014解できるが、それは、国際人道法上の諸問題の日本赤十字社における完全な理解の上でのことでなければならない。(1)核兵器(nuclear weapon)とは、急激な核分裂又は核融合からの熱線、爆風及び放射線を利用する兵器で、原子爆弾と水素爆弾がその代表である。単に放射性物質をその構造の全部又は一部に用いる兵器やいわゆる放射線兵器とは区別される。(2)平時戦時の二元的構成の時代には戦時国際法(international law in times of war)や戦争法(law of war)と呼ばれたjusin belloを何と呼称すべきかは、それがいかなる法かの認識を示すことになる重要な問題である。今日でも実体的に同じ規則群をいうのに戦争法(ここでいう戦争は、法上(de jure)の戦争に最早限らない)、武力紛争法(law of armed conflict)や国際人道法(international humanitarian law)という三名称が並存している。国際人道法の語は、1970年代から赤十字国際委員会が使い出したもので、人道的観点から武力紛争犠牲者を保護するジュネーヴ法系の諸規則を当初は指していた。後に、ハーグ法系規則にも人道的要素があるとしてこれも包含し、jus in bello全体を指す名称となった。これは、国際赤十字赤新月運動関係者だけではなく広く用いられるに至り、日本国内法ですらこれを使う。しかし、この規則群は、人の殺傷や物の破壊を行っても、一定の条件が揃えば法的責任が全く問えないことを認めるものであって、人道的観点からの説明の貫徹は困難である。ジュネーヴ法系規則についてはともかく、ハーグ法系は特にそうで、ハーグ法系規則を人道性から再解釈しようとする試みは成功していない。それ故、戦争法又は武力紛争法の呼び方が依然適切である。但し、人道的観点からの再構成は未完ではあるもののその方向性を強調するというのであれば国際人道法と呼ぶこともできるかもしれない。本稿では、国際人道法という用語が引用文書で頻出し、これと内容上は同義の武力紛争法の語を本稿内引用文以外で同時に使用すると読解しにくくなるという主に便宜上の理由から国際人道法の呼称を使用する。(3)核兵器使用に関する国際人道法上の見解の対立の分析を含む包括的な研究として、藤田久一、『核に立ち向かう国際法原点からの検証』(法律文化社(2011年))があり、内外重要参考文献一覧も巻末に掲載される。核軍縮に関する最近の著作としては、黒澤満、『核軍縮と世界平和』(信山社(2011年))を挙げたい。また、核兵器に関する国際政治学と国際法の双方の分析手法を比較する論考として、広瀬訓、「核兵器のない世界を目指す国際政治と国際法の接近」(書評論文)(日本国際連合学会編、『「法の支配」と国際機構その過去・現在・未来』、国際書院(2013年)、203-215頁)も興味深い。(4)See generally,“Council of Delegates of the International Red Cross and Red Crescent Movement, Geneva, 26 November2011, Interview with Philip Spoerri,”International Review of the Red Cross(hereinafter IRRC), Vol.94, No.885(2012), pp.348-354.(5)CouncilofDelegatesoftheInternationalRedCrossandRedCrescentMovement,“WorkingtowardstheEliminationofNuclear Weapons,”Resolution 1(26 Nov. 2011)(hereinafter 2011 Resolution 1), reproduced in ibid., op. cit., pp.357-359, alsoavailable at http://www.icrc.org/eng/resources/documents/resolution/council-delegates-resolution; French text, see,http://www.icrc.org/fre/resources/documents/resolution/council-delegates-resolution(visited 9 Jan. 2014).(6)日本赤十字社から日本政府に決議草案の論点が事前に示されていたが、同政府は同社に対しその見解を述べることを控えるという態度であったという。大山啓都、「核兵器及び原子力災害における赤十字の見解について」、『日本赤十字豊田看護大学紀要』、第8巻1号(2013年)、62頁。(7)決議は、コンセンサスで通常採択される。決議1共同提案者はアジア、大洋州及び欧州の赤十字赤新月社が中心であるが、東アジア及び東南アジアからは日、マレーシア及び比の三社にとどまる。欧州でも例えば独、伊、西、フィンランドやポーランドの各社は提案者になっていない。アフリカや中南米の諸国の共同提案社数は僅少である。国連安保理事会常任理事国赤十字社は入っていない。(8)大山、前掲、59頁。これまでの見解に関しては、さらに以下を参照せよ。”Statement of the ICRC at the United NationsGeneral Assembly, 51st Session, 19 Oct. 1996,”http://www.icrc.org/eng/resources/documents/article/other57jncx.htm(visited 9 Jan. 2014);“Statement by Jacob Kellenberger, President of the ICRC, to the Geneva Diplomatic Corps”(20April 2010, Geneva), http://www.icrc.org/eng/resources/documents/statement/nuclear-background-document-2(visited 9 Jan. 2014);“Background Document prepared by the International Committee of the Red Cross, Council ofDelegates of the International Red Cross and Red Crescent Movement, 26 Nov. 2012,”CD/11/4.1(26 Nov.2011), http://www.icrc.org/eng/resources/documents/report/nuclear-background-document-2(visited 9 Jan. 2014).(9)2011 Resolution 1, paras.2 and 3, op.cit.(10)赤十字国際委員会の見解は重視されるが、ときにその任務の範囲をこえると批判される。同委員会は、1996年にSIrUS(Superfluous Injury or Unnecessary Suffering)Projectを開始し、過度の傷害又は無用の苦痛の客観的基準定立を企図した。しかし、害敵手段というハーグ法の問題であったことからもこの試みを批判するものもあり、”Just Say No! TheSIrUS Project: Well-Intentioned, But Unnecessary and Superfluous”と題する論文まで現れた(by D.M.Vercio, Air ForceLaw Review, Vol.51(2001), pp.183-227)。また、同委員会のInterpretive Guidance on the Notion of Direct Participation inHostilities under International Humanitarian Law(2009)に強い批判がでたことも記憶に新しい。軍事的合理性重視派は、過度の傷害又は無用の苦痛を与えることの禁止原則をこの解釈指針が害敵手段のみならず害敵方法にも拡大することを見当違いと非難し、武力紛争犠牲者保護重視派も解釈指針が構成員性基準を非国際的武力紛争の人的目標選定基準とするのは対テロ作戦で人的目標を拡張する米軍の立場と同じである旨批判した。赤十字国際委員会の見解がこれほどの集中砲火を専門家から浴びたことはあまりない。真山全、「文民保護と武力紛争法敵対行為への直接的参加概念に関する赤十字国人道研究ジャーナルVol. 3, 2014 15