ブックタイトル人道ジャーナル第3号

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概要

人道ジャーナル第3号

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 3, 2014法の諸原則の一切に軍事的知見が必要とされることは明らかである。このように軍隊の行為規範としての人道法の普及は、常に戦場で展開される軍事作戦と表裏一体の関係にあることがその特質の一つに挙げられる。また他方で、人道法の適切な履行確保はしばしば国家的戦略を正当化する言質としても利用されることがある。例えば、2006年の米国の『作戦法規便覧』が、「海外での軍事的任務が成功するかどうかは…(その)任務に関する法的根拠を明快に…表明することが、国内で指示を受け、海外で容認されるために不可欠である」とするように、政策的観点から人道法順守の重要性が強調されることもある。軍隊における普及において、法律顧問がもはやその軍隊ヒエラルキーの一部に組み込まれることを考えれば、戦場における人道の達成という観点より、むしろ、それをどう軍事的、政治的要請と折り合いをつけるのかという現実的観点が優位にあるように思われる。・赤十字における普及赤十字の誕生が、戦場における医療活動のための団体(赤十字社)の創設と国際条約(人道法)による保護を起源としているように、その存立基盤である人道法の普及は赤十字の不可欠な任務である。1887年の赤十字国際会議では「軍隊、条約の履行に関係する集団、また、一般大衆に対して、1864年のジュネーブ条約の知識を広めるために各国赤十字社によってとられた、または、とられるべき措置」を、さらに1934年の同会議では「ジュネーブ条約と赤十字の諸原則の青少年への教育」を決議しているように、人道法普及・教育の必要性を赤十字は早くから認識している。赤十字における人道法普及において強調される点は何か。それは、赤十字の最も重要な原則「人道(苦痛の軽減)」を達成することであり、赤十字の諸原則の普及がそれを支えている点にある。赤十字の諸原則とは、1965年の赤十字国際会議で採択された「人道」「公平」「中立」「独立」「奉仕」「単一」「世界性」という赤十字の戦場での経験から導かれた活動理念を七つの原則に集約したもので、「敵味方の区別のない救護」を達成するための実践的指針である。とりわけ一方の紛争当事者に与するものではないとする「中立」や「公平」といった赤十字の諸原則は、人道支援活動の実現のために不可分の普及テキストと言える。赤十字と一口に言っても普及の担い手は一様ではない。まず「単一」の原則が示唆するように国内の赤十字社は一社であり、必然的に各国内の人道法普及のイニシアティブは各国赤十字社が負うことになる。したがって各国赤十字社内部ではまた、普及を専門とする要員の教育訓練も必要になる。各国赤十字社と同時に、ICRC(ないしIFRC)にはこれらの赤十字ネットワーク網における普及のコーディネーターとしての役割が期待される。人道法のルールが実際の戦場においてどう機能しているのか(いないのか)について、とりわけICRCの戦場での経験は、各国赤十字社の普及の実践に大きなリアリティーを提供する。例えばICRCが今日的に懸念を示す医療活動への攻撃(赤十字標章の保護機能の低下)に端を発する『Health care in danger』キャンペーンなどは、紛争の現実に裏付けられた人道法の重要性を改めて浮き彫りにしている。まさに人道法が戦争のルールだからこそ、戦場の今日的な惨状は説得力ある普及の材料として欠かせないものである。これは軍隊における普及が軍事的知見と表裏一体の関係であったように、人道の達成が強調される赤十字の普及の文脈においては「今日的に人道(例えば医療活動)の達成を阻害している要因は何か、その対処に人道法はいかに貢献できるか」という赤十字の使命の実現に向けた実際的側面が強調されるように思われる。ICRCの政策的指針の一つ『予防ポリシー(Prevention Policy)』もまた、あるべき普及の姿態を考察する手がかりとして示唆に富む内容である。つまり、紛争への予防的アプローチの一つとして、「行為は、人々の意見、態度、外見を直接的に変えることを試みるよりも、その行為に影響を与える環境条件を修正することで、より実効的に変化する」「予防は、早期に実施されるほど効果を上げる中長期的な継続したプロセスであり、好ましくない結果が生じてしまった後にとられる行動よりも潜在的に効果的で実効的である」とし、「犠牲者の生命と尊厳の尊重」を誘引するため、とりわけ「政府当局、学者、市民、メディア42人道研究ジャーナルVol. 3, 2014