ブックタイトル人道ジャーナル第3号

ページ
59/288

このページは 人道ジャーナル第3号 の電子ブックに掲載されている59ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

人道ジャーナル第3号

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 3, 2014国籍問題をめぐってその一例は、故郷訪問事業の対象者である日本人配偶者(日本人妻)の「国籍問題」をめぐるものでした。原因は、第2回故郷訪問(1998年〈平成10年〉1月27日? 2月2日実施)の際に、北朝鮮側から提示された対象者リストにあった2名の日本人配偶者(日本人妻)が、北朝鮮への帰還の段階で日本国籍喪失者であったために第2回の故郷訪問対象者から外されたことです。もとより、第1回の日朝赤十字連絡協議会における日本人配偶者の故郷訪問に関する合意書および付属書の中では、「各回の訪問団の構成員については、朝鮮民主主義人民共和国側が資料をあらかじめ日本側に提供し、双方で協議の上確定する」となっており、第2回の故郷訪問団の構成員については、朝鮮赤十字会からの反発はあったものの、最終的には国籍喪失者2名を除く12名の構成員名簿で表向き合意がされました。しかし、北朝鮮側の言い分は、すでに訪問団が構成され、近々にも日本へ向かうという準備の最終段階でこれを覆すことは困難であり、やむ得ぬ判断で対処せざるを得ないというものでした。したがって、第2回故郷訪問団は日本への出発前から複雑な気持ちを持って来日したのです。このことは、日本の一部マスコミの報道内容や日本の右翼、反北朝鮮団体の行動が油を注いだ形で、その後、第3回の故郷訪問(2000年〈平成12年〉9月12日~18日)までの事業実施中断となって現れ、事業の実施に大きな影響を与えることになりました。1998年〈平成10年〉6月9日、朝鮮赤十字会は、中央委員会名での談話を発表し、そのなかで、「日本側は国籍離脱者問題を持ち出し、故郷訪問事業に人為的な難関を引き続き生じさせている」と日本側の対応を強く非難しました。同じ談話のなかには、第2回故郷訪問時に日本人配偶者の宿舎となった代々木のオリンピック記念青少年総合センターの敷地内に押し掛けた日本の反北朝鮮グループ(北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会:代表、小川晴久東京大学教養学部教授)の街宣活動や日本側のマスコミ報道に対する強い調子の非難が見られました。北朝鮮側は、これ以前の3月12日付の朝鮮赤十字会中央委員会名のファックスのなかで、特定の報道機関の報道内容を挙げ、共和国と在日朝鮮人連合会を中傷し、故郷を訪れた日本人配偶者を侮辱したとして、故郷訪問事業の一時中断を強く求めてきました。しかし驚いたことには、その翌日(3月13日)付で、同じ朝鮮赤十字会からまったく別のニュアンスの書簡が日本赤十字社あてにファックスで送られてきました。それは、先にスペインのセビリヤで開催された国際赤十字・赤新月社連盟総会(1997年〈平成9年〉11月)の折に、朝鮮赤十字会の代表団長(リ・ソンホ会長代理)に近衛副社長(当時)から同赤十字会への訪問申し入れに対する正式招待の書簡でした。そのなかには、一方で強く実施の中断を求めてきた日本人配偶者の第3回故郷訪問団事業についても話をしたいという内容がありました。もちろん中傷や非難などの政治的な文言はなく非常に丁寧な内容の書簡でした。宛先は近衛副社長で、差出人は朝鮮赤十字会会長代理のリ・ソンホ(李星鎬)氏でした。明らかに、前日の中央委員会名による手紙とリ・ソンホ会長代理からの手紙とでは同じ朝鮮赤十字会名の手紙であれ、その内容、形式に大きな違いがあり、その後の連絡においても同様の区別した取扱いが見られ、朝鮮赤十字会内部での対日的な意思表示と伝達の使い分けが認められました。国籍問題について日本赤十字社は、一貫して故郷訪問事業は離散家族の再会という視点(第18回赤十字国際会議決議第20)からとらえ、第1回の日朝赤十字連絡協議会の合意書にあるとおり、「この故郷訪問が専ら人道的見地のみに立って行われる」との立場から、日本政府に人道的な配慮を申し入れてきました。第1回の故郷訪問団にもすでに2名の日本国喪失者が入っており、政府は、その時点では「人道的観点から行われる事業」として日本国籍を持たない人を含めて柔軟な対応を示していましたが、一部マスコミからの「我々の税金を日本国籍離脱者に使うのはけしからん」という声に押されて政府の予算で行うのであれば日本国籍者を優先すべきであるという声が政府部内から聞こえてきました。そもそも、日本人配偶者の法的地位(国籍等)は北朝鮮においては「共和国公民」と呼ばれており、かつて北朝鮮帰還に際して日本を出国する時点での国籍についても、本人の意思とは関係なく、サンフンシスコ条約の発効の時点で、当時朝鮮籍の夫を持っていた日本人配偶者(日本人妻)は、本人の意思に関係なく日本政府人道研究ジャーナルVol. 3, 2014 57