ブックタイトル人道ジャーナル第3号

ページ
60/288

このページは 人道ジャーナル第3号 の電子ブックに掲載されている60ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

人道ジャーナル第3号

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 3, 2014の法的な解釈で自動的に日本国籍を失うことになったという実態(11)があります。このようなケースを含めて今回の日本人配偶者(日本人妻)の故郷訪問事業の本来の目的からすれば、厳密に「国籍問題」を論議することの意味はないのではないかと考えていました。「公平の原則」と対象者の優先順位本質的な問題は、今回の故郷訪問事業の対象者(候補者を含めて)はもともと日本国籍を有していた人たちであり、帰還まで過程で自己の判断の有無に関係ないケースを含めて国籍を離脱・喪失した人々は、誰であれもともと「日本人」であることには変わりはないという事実です。ましてや、赤十字が「専ら人道的な見地」から家族と離れ離れになっている家族の再会を行うということであるのであれば、現在、国籍を持つか、持たないかは、この事業の趣旨からは本質的な問題ではないと考えました。仮に、日本政府や一部マスコミが主張した、対象者の「優先順位」の問題であれば、人道的な見地からは、むしろ候補者や日本で再会を希望する家族の年齢や健康状態など、再会を優先して取り扱わなければならない人道的基準をもとに「優先順位」を考慮することが赤十字の原則(特に公平の原則)に即した対応の仕方ではないかと考えていました。このことについては、日本赤十字社は、日本政府にも、朝鮮赤十字会にも、公式・非公式を問わず機会あるごとに赤十字の立場を伝えてきました。日本政府側は、「故郷訪問は人道的見地から行われる」との立場に何ら変わりはないとしながら、原則的には1.帰還事業により北朝鮮に渡航した配偶者で、出国時に日本国籍を有してした者2.終戦前からの残留邦人で現在北朝鮮に在住している者という原則論は崩しませんでしたが、最終的には第2回訪問事業の対象者から除外した人を第3回以降の実施時に一人ずつ入れて問題の穏便な解決を図ろうとしました。(12)ただし、北朝鮮側との対象者選定にあたっての「国籍問題」をめぐる見解には、大きな意見の違いがあり、その溝を埋めることは終始困難でした。1998年(平成10)4月に、近衛副社長とピョンヤンの朝鮮赤十字会を訪問した際に、第2回の故郷訪問団員から「国籍問題」で候補者リストから外された2名の日本人配偶者の方々と朝鮮赤十字社本社でお目にかかる機会がありました。お2人とも東京都の出身の方で、戦後、在日朝鮮人とご結婚され帰還事業で北朝鮮へ夫ともに渡った方で、国籍を失っているとの理由で、第2回の訪問団員から外されたことに「大きなショックを受けた」と語っていました。北朝鮮へ渡ったときには、「日本人」ということさびしい思いをし、さらに、日本からは「国籍離脱者」として訪問対象者から外されると二重のつらさを味合うことになった、とその心情を私たちに吐露していました。対象者の全体把握の困難さ日本側が、故郷訪問事業の対象者数が毎回ごとに積み上げられることを避けるため、日本人配偶者の中での生存者及び故郷訪問希望者の総数を北朝鮮側に調査することを求めたに対して、北朝鮮側は日本人配偶者を共和国内では区別も差別もしておらず、その数は集計していないとして、また、日朝間での合意書の内容が明らかになってはじめて態度を決定する者もいるとの理由で、政策上および技術上総数を集計することは困難であると回答してきました。日本政府がこの故郷訪問の事業計画を立てる上で、実務上の配慮から対象者の全体像を把握したいとして、日朝赤十字会談では、日本赤十字社が保管している帰還者名簿から調査した結果、推定される日本人夫を含む(13日本人配偶者の名簿(1847名)うち日本人夫は13名)とさらに、厚生労働省が保管している未帰還者、す(14なわち戦中・戦前に朝鮮半島にわたりその後今日まで日本へ帰還していない方々の名簿)を北朝鮮側に渡して調査を要請しました。しかしながら、計6回の会談を通じて北朝鮮側からはその全体像が示されることはついにありませんでした。58人道研究ジャーナルVol. 3, 2014