ブックタイトル人道ジャーナル第3号

ページ
9/288

このページは 人道ジャーナル第3号 の電子ブックに掲載されている9ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

人道ジャーナル第3号

The Journal of Humanitarian Studies Vol. 3, 2014赤十字国際委員会、各国赤十字赤新月社及び国際赤十字・赤新月社連盟の全てがかかわる国際赤十字赤新月運動は、武力紛争犠牲者保護に携わり、国際人道法普及に努力する。その故に、兵器使用の法的評価について見解を表明することがある。国際人道法上適法に使用する状況がないと認識される兵器であれば、運動がその使用を非難することは容易である。しかし、核兵器はそうではない。核兵器使用の国際人道法上の評価について見解が対立してきたことはよく知られている(3)。2011年11月の国際赤十字赤新月運動代表者会議は(4)、決議1として「核兵器廃絶への取り組み」を採択した(5)(6。赤十字国際委員会及び日本赤十字社)を含む赤十字赤新月社30社が共同提案者である(7)。同決議は、国際赤十字赤新月運動の核兵器に関する従前の見解との連続性を前文で述べるが、代表者会議としてここまで核兵器について踏み込んだものはなかったと評されている(8)。すなわち、決議1は、国際人道法規則に合致した核兵器使用が「困難(difficult)」であると述べつつ(本文第2項)、核兵器の合法性に関する各国の「見解にかかわらず」、その不使用を訴えるとしている(同第3項)(9)。国際赤十字赤新月運動が兵器使用の法的評価を行うことそれ自体は、関係国際文書からしても妨げられない。しかし、決議1は、この運動内における核兵器関連活動としての限定的な意味しか原則的には持たない。何故ならば、決議は国家を拘束せず、それ自体国家実行でもなく、従って、既存規則の確認又は慣習法形成の基礎としても重大な意味を持つとはいえないからである。とはいえ、赤十字赤新月国際運動の見解は、参加者の広範さから相応の尊重を受け、それに諸国が自発的に従うことで慣習法規則の生成もありえる。特に、この運動と密接に関係する赤十字国際委員会が一定の解釈を与える場合には、有権的なものとしてそれを認識することすらある(10)。国際赤十字赤新月運動における核兵器に関する意思の最新の表明の一である2011年代表者会議決議1の内容が広く諸国の実行において受容されていくと仮定すると、国際人道法の観点からいかなる帰結がもたらされるであろうか。同決議は2011年代表者会議直後に開催された赤十字赤新月国際会議では採り上げられなかったが、2013年には同決議内容の実現を目指すシドニー開催代表者会議決議1が採択されている。そこで、決議1の国際人道法的検討を行うのは、国際赤十字赤新月運動の今後の活動の観点からは有用ではないかと思料される(11)。加えて、日本赤十字社が決議1の実施を重視するのであれば、その国際人道法からする意義と限界の認識が必要になる。2011年決議1の中心的論点は、核兵器使用がいかなる場合にも完全に違法とは断言しないまま、核兵器使用に関する諸国の法的評価にかかわらずその不使用を求めるとしていることの意味である。核兵器使用が合法たりうると考える諸国が決議1を受けて、核兵器不使用を誓約することでもよろしいと決議がいうのは、不使用自体は国際人道法の要求では依然ないと述べるのと変わらないことになるかもしれない。そうであれば、不使用がいくら継続してもそれは使用合法説諸国の自制にすぎず、核兵器使用が違法であるという慣習法成立にむしろ障害となるという懸念がある。国家との関係で拘束力を持たない国際赤十字赤新月運動決議に国際人道法上の意義が生じるとしたら、何らかのかたちで国家又は政府間国際機構の実行に影響を与えている場合に限られることを改めて想起しつつ、決議1がそのような意味を持つことを仮定してこれを分析する。なお、国家間条約ではないのでウイーン条約法条約のいう解釈手法もそのまま決議解釈には適用できない。また、政府間国際機構採択決議でもないので、解釈方法について国際法上の特定の慣習法もないことに留意したい。1.2011年代表者会議決議1における国際人道法関連箇所の評価(1)国際人道法関連箇所2011年代表者会議決議1にあって国際人道法に特に関係するのは、前文第7段落、本文第2項及び同第3項である。決議冒頭に主語「代表者会議(The Council of Delegates)」を置いた前文の第7段落は、「国際人道法の原則及び規則が核兵器に適用されることを確認し、このような兵器の威嚇又は使用が国際人道法の原則及び規則に一般には違反するであろうと結論した国際司法裁判所の1996年の勧告的意見を想起し(recalling the 1996人道研究ジャーナルVol. 3, 2014 7