ブックタイトルThe Journal of Humanitarian Studies
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The Journal of Humanitarian Studies
Journal of Humanitarian Studies Vol. 4, 2015愛知万博・赤十字パビリオンの衝撃大塚義治1平成17年7月、私は用務で、初めて「愛・地球博」(2005年日本国際博覧会)の「赤十字・赤新月パビリオン」を訪れた。それは、私にとって、想像もしていなかった衝撃的な〝出来事〟となった。同年4月に日本赤十字社の仕事に携わるようになったばかりの私は〝新米〟〝駆け出し〟そのもので、赤十字とは何なのか、どういう存在なのか、などということに思いを巡らす以前の状態にあった。121か国、4国際機関、多数の民間企業が参加し、我こそはと競い合うように設けられたパビリオン。その中で、赤十字・赤新月館は、1モジュール(18m×18m×9m)という最小の、地味なパビリオンだった。初期の頃は入館者もまばらで、案内などの業務のために詰める日赤のスタッフも、やや手持ち無沙汰の状態だったという。それが、口コミによって徐々に人々に知られるようになり、やがて、入館まで1時間、2時間待ちが常態、インターネットの満足度投票ランキングサイトでも1位を獲得するという、超人気パビリオンに変わっていった。「最終日には、それまで観覧をあきらめていた人が『どうしても見たい』と押し寄せ、待ち行列がグローバル・コモン2の広場を埋め尽くし、最長で6時間待ちとなった」後にまとめられた資料にこう記されている。結局、185日の開催期間中の来館者総数は、事務局が当初に見込んだ15万人の3倍を超える47万人という数に昇った。それは、まず何より〝企画の勝利〟であったといっていい。入り口を入った最初のゾーン「ギャラリー」が導入部。展示やパネルなどはわずかな点数のシンプルなものだったが、私には、それがむしろ好ましく思われた。こうした催しにありがちな、押し付けがましさのようなものが少しも感じられなかったからである。同館が大反響を呼んだ最も大きな要因が、メインというべき次のゾーン「マインド・シアター」にあったことは、多くの人々の賞賛の言葉が何よりの証明であろう。天井の画面に映し出される映像を、観客はソファに寝そべって見上げるというユニークな仕掛け。流れる映像はわずか7分。しかも、説明やナレーションは一切ない。しかし、観客は画面に引きつけられた。人間同士の悲惨な争い、すべてを破壊し尽くす自然の脅威。そして、家族の絆と生命の尊厳を守り、回復するために世界で活動する赤十字の人々。その上に、まるで胸の奥を鷲掴みにされるような、「ミスター・チルドレン」桜井和寿さんの歌「タガタメ」が重なる……。映像は、眼を背けたくなる現実をも淡々と映し出す。その圧倒的な迫力と説得力。加えて、優れたミュージックとの究極のコラボレーション。エンディングを迎えても、観客がしばし立ち上が1日本赤十字社副社長・日本赤十字学園理事長人道研究ジャーナルVol. 4, 2015109