ブックタイトルThe Journal of Humanitarian Studies
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The Journal of Humanitarian Studies
Journal of Humanitarian Studies Vol. 4, 2015るのを忘れてしまうほど、強烈なインパクトを持つものであった。そして、私も、その一人だった。最後のゾーンは「メッセージ・コーナー」。入館者の思い思いのコメントが壁面に掲示される。寄せられたメッセージは、何と5万通である。その一つ一つが、短くも見事な言葉で綴られ、パビリオンのテーマを見事に表現する〝作品群〟になっていた。斬新で、細部まで気配りの行き届いた、間違いなく、高水準、高品質の素晴らしいパビリオンであった。しかし、私にとってより衝撃的だったのは、そのブレイクぶりである。正直に言えば、私は、赤十字の活動、理念といったものが、人々の、特に現代の若い世代の、これほど強い関心と共感を呼ぶとは、思ってもいなかった。私の根拠のない推測は、ものの見事に裏切られたのである。別の、ある大きな有名パビリオンを覗いてみたときのことである。案内をしてくれた若い女性のコンパニオンの方が、私が日赤の関係者だと知って、こう言う。「私は、赤十字パビリオンに、もう5回も行ったんですよ」驚きであった。私は、いやでも、その意味、すなわち、赤十字とはいったい何なのか、何が、かくも多くの人々の心に響くものを与えたのか、を考えさせられることになった。赤十字運動は、時代を超え、国境を越えた普遍的な価値の実現を目指すものである。平和の希求、飢餓や貧困からの脱却、自然災害の克服……。むろん現実の世界は、そうした理想からはるかに遠いところにある。だが、赤十字は、そうした現状に失望はしない。それは、赤十字が、人間という存在に対する信頼に立脚し、人類の未来に対する希望を根本に置いた運動であるからである。そして重要なことは、赤十字は〝実践〟のための運動であり、組織体だということだ。実際に何をしたか、何が出来たか、が問われる。だから、赤十字運動の在り方も、その理論も、時代と環境の変化に合わせた進化と成長が必要であり、そのための弛みない努力の積み重ねが求められることになる。だとすれば……と、私はなおも自問自答を繰り返す。あのパビリオンの衝撃によって与えられた設問は、難問である。その答えを、私はいまも探し続けている最中である。110人道研究ジャーナルVol. 4, 2015