ブックタイトル平成26年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

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概要

平成26年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

亡者数も増加し、ピークを迎える2040年には166.9万人が亡くなると推定されている(国立社会保障・人口問題研究所, 2012)。このような超高齢化社会、多死社会の到来により増加が見込まれる医療費の抑制を目的として、政策的にも、自宅で最期を迎える終末期患者の割合(自宅死亡率)を増やすという目標が掲げられ、終末期患者に対する在宅医療の推進に重点が置かれてきている。がん罹患数も、人口の高齢化に伴い増加している。2008年のがん罹患数は1985年の約2倍となっている。2012年の生涯がんに罹患する割合は、男性58.0%、女性43.0%であり、生涯がんで死亡する割合は、男性26.0%、女性16.0%(公益財団法人がん研究振興財団, 2013)を占めていた。しかしながら、がん患者に限定した自宅死亡率は8.9%(厚生労働省, 2012)にとどまっていた。終末期がん患者や家族の生活の質(Quality of Life;以下QOL)は低く(Miyashita, Misawa, Abe, et al., 2008)、希望する療養の場で過ごすことや死亡することはQOL改善に影響する(Peters & Sellick, 2006)ことから、終末期がん患者の死亡場所についての希望と実際の隔たりを少なくすること、つまり自宅死亡を希望する場合には自宅で、病院死亡を希望する場合は病院で最期を迎えるといった希望死亡場所を実現することは重要な課題である。がん患者の多くが希望する死亡場所である自宅死亡の関連要因として、先行研究では、患者・家族が予後を理解していること(谷口・松浦, 2005)、患者が希望を表明すること(Fukui,Kawagoe, Sakai, et al., 2003)、患者と家族の希望が一致していること(Ikezaki & Ikegami,2011)、医療従事者が患者や家族の希望を確認していること(早瀬・森下, 2008)が明らかになっている。また、医療従事者が希望死亡場所を確認する前提として「病名の告知」「不治の告知」「余命の告知」が挙げられ、これらが自宅死亡の実現(谷口他, 2005)につながっており、患者への告知が必要である。ところが、患者への病名の告知は進んできているものの、治癒の見込み、余命予測は告知が進んでおらず(田代・藤本・相澤他, 2013)、終末期がん患者の希望死亡場所の確認をしていくうえでも影響している可能性がある。このことから、終末期がん患者の希望死亡場所の実現には、医師による余命の告知の有無を確認し、必要な場合には看護師が医師に余命の告知を促し患者・家族に予後理解を促すこと、希望を確認すること、といった終末期の意思決定支援を実践することが重要であるといえる。Fukui, Fujita, Tsujimura, et al.(2011)は、日本で訪問看護を利用することにより自宅死亡率は現行の1割未満から5割程度まで高まることを明らかにした。さらに、熟練訪問看護師の実践として、患者との信頼関係を有しているため、終末期の意思決定支援を実践するうえでのファシリテーターとして適任であること(片山, 2014)、死を肯定的に捉え(久山・吉岡, 2014)、病棟看護師と比較して死の看取り満足度が高い(横尾・吉原・松島他, 2010)ことが挙げられている。以上より、終末期がん患者への熟練訪問看護師の支援は効果的であるといえる。この熟練訪問看護師による効果的な支援をより確実に提供していくために、終末期の意思決定支援がより適切にできる状況を捉えることが重要となる。しかしながら、110