ブックタイトル平成26年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

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概要

平成26年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

体が戦争に陥る状態になると、ほとんどの緩衝国は中立を保つことができなくなった33。第二次世界大戦中の中立国について、スウェーデンとスイスの比較が、中立制度を考えるうえで、有益である。スウェーデンは英独両国から侵略される恐れがあり、とくにイギリスがスウェーデンを侵したとしたら、ドイツはスウェーデンを直ちに占領したであろう。しかし、事実としては、ドイツがノルウェーを占領すると、ドイツの圧倒的な存在により、逆に連合国側のスカンジナビア半島進出という恐れがなくなり、スウェーデンはドイツによる占領を免れたのである34。対して、ドイツはスイスを占領しようと思えばいつでもできたが、スイスから必要な利益を得ており、占領する必要は特になかった35。スイスはスウェーデンと同じように、自国の中立を人道的な活動で補強するようになった36。スイスは国際社会から「理想的な仲介者」とみられ、多くの紛争で仲介役を果たしてきたが、さらに人道的な活動を行うようになり、その一つが赤十字、そしてもう一つが国際人道法の発展であったとKarshは主張している37。6 Richard H. Owens, The Neutrality ImperativeRichard H. Owensはアメリカの中立について論じている。そして、第二次世界大戦からイラク戦争まで、アメリカは積極的に戦争当事国となってきたが、大戦前には「中立義務(Neutrality Imperative)」があったと主張する。「中立義務」とは、合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンの中立宣言と1776年のモデル条約の規範が適用されるよう要請することである38。本書は、戦後のアメリカ外交を批判的に評価し、アメリカの伝統的な中立主義の重要性を指摘するものであり、多分に政治的な内容ではあるが、現在のアメリカの外交を多面的にとらえるためには一読に値する。7 John Pollard, The Papacy in the Age of Totalitarianism 1914-1958John Pollardは、ベネディクト15世からピウス12世まで、すなわち第一次世界大戦から冷戦期までのローマ法王およびヴァチカンの歴史を著した。第一次世界大戦中、ヴァチカンは中立を表明、ヨーロッパのカトリック・非カトリック諸国は、これをおおむね歓迎した39。ヴァチカンは人道援助にも関与し、1915年の春までに捕虜のための機関を設置し、たとえば捕虜とその家族の間の通信5万件をとりもつなど、赤十字の活動とも比較できる活動を行った40。また、特筆すべきことに、スイスは1873年にヴァチカンと国交を断絶し33 Ibid.34 Ibid., 100.35 Ibid.36 Ibid., 162-163.37 Ibid.38 Owen, p. 7.39 Pollard, 41-42.40 Ibid., 54-55.76