ブックタイトル平成26年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

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概要

平成26年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

アメリカのキリスト教系団体は、ドイツに追われてポルトガルに非合法に入国した難民を特に支援した59。また、アメリカのクエーカー教系の団体であるAmerican Friends ServiceCommittee (アメリカフレンズ奉仕団:AFSC)は、ポルトガル・アメリカ両政府と連携しながら、ポルトガルに入国した難民の支援にあたった60。赤十字の活動については、たとえば米英両国の赤十字社は、捕虜のためにそれぞれ2千万個と2千7百万個の小包を送ったが、多くはポルトガルも含めた中立国を経由して、捕虜に届いた61。元捕虜の証言によると、飢餓状態から救われるためにも特に食料は重要であり、食料が届かなくなることは不安をかきたてたとある62。(4)考察1中立制度の歴史的な考察Karshは中立国は「緩衝国」として存続すると主張したが、Abbenhuisの研究はそれより一歩進んで、19世紀のヨーロッパでは中立国が大国からもむしろ積極的に支持されたことを明らかにした。第二次世界大戦後、中立制度の在り方そのものが問題視され、中立の存在意義が問われてきた。また、スイスなどの中立国および赤十字国際委員会の第二次世界大戦中のドイツとの関係が問われ、そして非難されるなか、中立も否定的にみられる傾向があったのは否めない。しかし、ヨーロッパで中立制度が確立した19世紀から第一次世界大戦までは、中立国の存在がヨーロッパ全体を巻き込む大戦争を防ぐ理由の一因であったことは特筆すべきであり、中立の積極的意義をそこに見出すことができる。もう一つ中立制度に関連して、特にスイスやスウェーデンという中立政策を数世紀にわたって維持してきた国々は、初めから中立国であったわけではなく、その国の歴史の中で自国の利益と他国の利益が相まって中立となっていったことは、わが国ではあまり認識されていないと思われ、特筆すべきと思われる。スイスについては、Tsachevskyの研究によると、13世紀から何度も対外戦争を行い、領土の拡張をしてきたが、15世紀後半から安定を求めるようになり、三十年戦争に参戦しなかったこともスイスが永世中立国として成立する下地となった。Af Malmborgの研究によると、強大な帝国であったスウェーデンは、軍事的な大敗北のあと、中立政策をとるようになったが、これには宗教的な理由や帝国の放棄という、スウェーデン独自の理由があったことがわかる。もっとも、そのスウェーデンの中立も第二次世界大戦中、危機にさらされるが、Karshによるとドイツがノルウェーを占領したためかえってスウェーデンは中立を守ることができた。これもスウェーデンの中立を議論するうえで欠かせない要素であり、結果論ではあるが、スウェーデンの中立は59 Ibid., 171-178.60 Ibid., 178-186.61 Ibid., 91.62 Ibid.79