ブックタイトル平成26年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

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概要

平成26年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

その歴史に根差していることがわかる。なお、以上の結果はあくまでもウィーン会議後特に百年間のヨーロッパの情勢内での中立についてであるため、たとえばOwensが論じたアメリカの中立政策などヨーロッパ外の中立についても今後、検討する必要がある。2中立と人道支援の関連性赤十字に関連して今回の研究でとくに明らかになり、また、今後も引き続き研究が必要なのは、赤十字が成立した背景には、中立国の積極的な人道活動への関与があり、また、中立国の人道的役割が時代を経るごとに重要視されたことである。Tsachevskyは、スイスにおいて数々の国際機関や人道機関が本部をおき、それがスイスの中立国としての評価を高めたことを明らかにした。Abbenhuisもスイスやスウェーデンにおける人道機関・国際機関の設置に言及し、また、19世紀に永世中立国のスイスとベルギーは難民や亡命者を受け入れ、中立国の役割に人道活動が加わったとしている。Weberによると、第二次世界大戦中、中立国であるポルトガルのリスボンでは、数々の人道団体が大戦から逃れてきた人々に支援を行った。特にTsachevskyおよびAbbenhuisの研究で明らかになった十九世紀の中立国の人道活動を背景に赤十字は誕生し、中立国の人道活動における高い評価を赤十字は享受したといえよう。また、スイスやスウェーデンのような中立国と比較すると、ポルトガルは「地味な存在」ではあるが、Weberの研究にあるように、第二次世界大戦中、ポルトガルでも人道的活動が行われ、中立と人道が重なるという流れは、スイスなど主要な中立国にとどまらず、各中立国で見られるようになったことがわかった。さらに、ヴァチカンおよびローマ教皇に関する書籍をとおして、ヴァチカンの国家としての中立とローマ教皇の大戦中に果たした人道的な役割は、これまであまり認識されてこなかったが、本研究中、宗教団体および国家としてのヴァチカンとローマ教皇の人道的な役割も、赤十字との比較において研究の必要があると考えられる。CoppaおよびPollardの研究によると、世界で最小の国家であるヴァチカンは二つの大戦中、中立国として人道的活動を行ったことがわかる。また、ローマ教皇は大戦中、和平への取り組みを行ったが、赤十字は人道活動に特化していたことを考慮すると、中立の一つのあり方を提示しているといえよう。大戦中の中立というとスイスやスウェーデンが挙げられるが、ヴァチカンおよびローマ教皇の役割も研究の対象として今後、重要となろう。3中立への批判前述のとおり、第二次世界大戦中の中立国および赤十字国際委員会のナチス・ドイツとの関係は、批判の対象となった。また、第二次世界大戦後は、国連の集団安全保障体制のもと、中立の意義が問われた。このような批判とは別に、Destexheは赤十字の中立の解釈80