ブックタイトル平成26年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

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概要

平成26年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

国際連合(以下、「国連」)は、紛争国への寄与の最大化を図るために、その多様な能力(軍事、政治、法の支配、経済、人道等)を一貫して、相互支援的に発揮できるよう各部門の連携を促進する「統合アプローチ」を推進してきた63。国連ミッションの「統合化」の萌芽と発展には、紛争の形態の変化が大きく関わっている。すなわち、1暴力の私有化、2文民への攻撃、3人道的介入という3つの特徴を持つ「新しい戦争」の影響である64。冷戦終結後、暴力の独占という国家の基本的機能が衰退したことにより、民族主義や宗教原理主義に駆られた私的戦闘集団が武器を取り、戦闘に及ぶようになった。この暴力の私有化は、戦闘員と文民、戦闘地域と非戦闘地域の区別を曖昧にした。軍隊と異なり、こうした私的戦闘集団の多くは指揮命令系統が明確ではなく、国際人道法等の武力行使に係る法規を遵守しない傾向にあり、民族的・宗教的憎悪から敵対する社会集団の文民にも暴力行為を行うようになった。このように複雑化した紛争に対し、国際社会は迫害を受けている人々の人権を保護するために軍事介入する、いわゆる「人道的介入」を行うとともに、紛争の再発を防止するために、法の支配や行政機構の確立といった平和構築・国家建設にも関与するようになった。現地政府の能力強化という任務が付託されるようになった近年の国連ミッションでは、早期に現地住民に「平和の配当」を届けることで、現地政府の正統性を高めることが求められるようになった。こうした背景から、紛争直後から平和維持活動と人道・開発支援が切れ目なく行われる必要性が指摘されるようになった65。一方、国連人道機関は、こうした新たな特徴を持つ武力紛争の下で人道活動を行うことを余儀なくされ、人道アクセスが制約されるようになった。人道アクセスとは、被災者のニーズを充足するための人道機関の能力と必要な支援に届く被災者の能力をいうが、その阻害要因としては、紛争当事者によるアクセスの拒絶の他、人道支援要員に対する政治的・経済的意図を持った攻撃や略奪、道路・輸送手段等のインフラ、気候・地形等が挙げられる66。これらの阻害要因のなかで、人道活動上、最も課題となったのは、武装集団による文民、人道支援要員、支援物資への攻撃と63統合アプローチに関する定義については、以下の文献に詳しい。国際連合平和維持局フィールド支援局『国連平和維持活動原則と指針』(キャップストーン・ドクトリン)2008年.64Macrea, J (ed),.‘The New Humanitarianisms: a Review of Trends in GlobalHumanitarian Action,’Humanitarian Policy Group Report, Vol.11, 2002.Kaldor, M., New and Old Wars: Organised Violence in a Global Era, Cambridge,Polity Press, 2013.65上杉勇司「国連統合ミッションにおける人道的ジレンマ」日本国際連合学会編『平和構築と国連』2007,145-174頁.66渡部正樹「文民保護、人道アクセス及び人道支援要員の安全確保に関する諸課題と国連を中心とした国連人道コミュニティによる取り組み」『人道研究ジャーナル』第2号2013年.83