ブックタイトル平成26年度「学校法人日本赤十字学園赤十字と看護・介護に関する研究助成」研究報告書

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概要

平成26年度「学校法人日本赤十字学園赤十字と看護・介護に関する研究助成」研究報告書

たり、人間の条件や生活様式を高めたり、病気や障害や死に対処しようとする個人または集団を援助し、支持し、能力を与えるような主観的および客観的に学習され伝承された価値観、深淵、パターン化された生活様式」である(レイニンガー1995:51)。言い換えれば、すべての人びとは、かれらが育ってきた文化において固有の健康(および疾病)信念や療養にかかわる考え方を身につけているということである。そして、看護師が看護を提供するときには、患者やクライアントの文化的背景とそれに培われている健康や病気そして療養などに関わる価値観を尊重しなければならないとレイニンガーはいう(ibid. 53)。レイニンガーが看護の世界で文化ケアの導入を訴えた背景には、アメリカ合衆国の事情がある。彼女が看護師として活躍しはじめた1950年代以降のアメリカ合衆国では、社会のさまざまな分野で「人種間格差」が顕在化した。そして民族集団間の文化的社会的差異が起因していると考えられた。また流入移民の増加にともなう出身国や地域の数が増え、アメリカ合衆国内で実践される生活様式や指向する価値観の多様化が進んだ。そうした現実に、看護師たちも対応しなければならなかったのである。文化ケアは、多民族・多文化状況が日常的であるアメリカ合衆国の看護の現場で発生していた目の前の現実への対応の1つであった。そして、看護における文化ケアの考え方は、今日では(保健医療従事者とは)異なる文化的背景の患者やクライアントを対象にした医療看護と結びつけて考えられることが多くなっている。例えば、日本では2000年以降看護師養成教育の大学課程化が急速に進んだ。そうした中で、看護師を対象にした国境を越えた思考力の養成の必要が指摘されるようになった。田村によれば(田村2012:まえがき)、最終報告書に先立つ平成20年1月の指定規則改正に関わる「看護基礎教育の充実に関する検討会」の報告書では、「・・・看護師として諸外国との協力を考えることができること」という文言が示されていた。また、平成23年に公表された『看護教育最終報告書』では、看護師養成教育における国際性に言及し(大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会平成23年:8)、「・・・保健、医療、福祉などに貢献していくことのできる応用力のある国際性豊かな人材養成を目指す」としている。看護師養成教育に対するこのような一連の提言は、国内の保健医療機関での勤務者養成を前提として運営されてきた看護師養成教育が、国の枠を超えて活動できるような人材育成のための教育に結びつく必要があることを示している。ここでいう国際性の豊かさとは、諸外国や日本文化以外の文化、いわゆる異文化の理解と対応力を指すと考えられる。看護において、異文化や国際にかかわる分野は「国際看護」あるいは「国際保健」と示される傾向にある。しかし、「国際看護」については定義をはじめとして明確な定見があるわけではない、とする立場がある[日本赤十字社2011:214-215]。そう言いながら、ここでの著者らは、国際看護の事例として、看護師の国境を越えた(協力や援助の)活動や、日本国内に居住しながらも日本文化を共有していない集団への看護を挙げている。一方、「国際看護学」として「学的体系を意識的に目指そう」とする立場もある(田村17