ブックタイトル平成27年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

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概要

平成27年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

に対応する意思と行動に焦点を当てる議論である。この議論は主にマイケル・イグナティエフやメアリー・カルドー等、いわゆるコスモポリタンの人々によって展開されてきた。コスモポリタンは、人権規範は普遍的な価値であり、ジェノサイドや人道に対する罪等の重大な人権侵害が発生している国家に対し国際社会は武力行使を含め、積極的に介入すべきであると考える。国際社会の意思と行動に依拠した議論は、のちに「人道的介入」論や「保護する責任」論として発展し、現在でも活発な論争が展開されている。現在のシリアの人道危機への国際社会の対応を見れば、「保護する責任」において指摘されている国際社会の「政治的意思の結集」と「安保理が機能しない場合の代替案」という2つの問題の解決は極めて重要である。第二の議論は、人道支援の動機と帰結の乖離である。この議論は、人命救済という動機で実施される人道支援が、被災者の裨益となるのか、あるいは紛争をかえって長期化させ、被災者の「害」になるのかということである。第二の議論が第一の議論と異なる点は、人道支援が被災者に与える影響にも焦点を当てていることである。本稿は「人道的空間」という概念から、赤十字国際委員会(ICRC)、国連人道機関、ドナー国の人道危機への対応を考察することを目的としており、第二の議論に問題意識があるといえる。(2)研究活動の方法赤十字国際委員会(ICRC)、各国赤十字・赤新月社(NS)、国連人道機関並びに非政府組織(NGO)が公開している文書を渉猟するとともに、これらの人道機関の関係者へインタビューを行った。(3)研究活動の結果文献渉猟並びにインタビューから、現代の武力紛争下の人道支援について、以下のことが明らかになった。1.紛争当事者による人道支援の妨害冷戦終結後、世界各地で国内武力紛争が発生したことに伴い、国防、治安、司法といった国家の基本的構造が破たんした結果、国連、国際赤十字赤新月運動、NGO等、国際社会の支援を必要とする「複合的人道危機」に陥る国家が現れている4。複合的人道危機にある国々では、健康的で尊厳ある生活に最低限必要な水、食糧、保健等の「支援」活動に加え、紛争当事者による殺人、傷害、虐待等の暴力から住民を「保護」する活動も必要となる。人道支援要員は、現地住民に「支援」と「保護」を提供するために現地に派遣されるが、彼らもまた紛争当事者から様々な干渉を受けてきた。例えば、ビザの発給停止や特定地域への移動の禁止等によって、紛争犠牲者への「人道ア年,109-125頁.4Inter-Agency Standing Committee (IASC), 10 th meeting, December 1994.18