ブックタイトル平成27年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

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概要

平成27年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

事会(安保理)からの付託に基づき、武力行使を含めた軍事的強制措置を採る、「人道的介入」を行うようになった。安保理は、イラクのサダム・フセインの弾圧により発生したクルド人難民への人道支援を推進するために採択された決議688(1991年)を皮切りに、人道支援要員や支援物資の安全を確保するための決議を採択するようになった9。ボスニア紛争において人道支援を容易にするために武力行使を容認した決議770(1992年)10、ソマリアにおける人道支援を容易にするために「必要なあらゆる手段」を採ることを容認した決議794 11等もそれにあたる。また、「文民保護」についても、決議1270(1999年)によって設立された国連シエラレオネ派遣団(UNAMSIL)において、初めてマンデートに文民保護が盛り込まれて以来、近年の国連平和維持活動(PKO)では文民保護活動が主要任務の1つとなっている12。しかし、1990年代の人道的介入の多くは重要な政治的課題を残した。第一に、国際社会の介入に対する政治的意思を結集できなければ、たとえある国で大規模な人道危機が生じても、ルワンダへの人道的介入が示すように、国際社会による介入が「あまりに小さく、あまりに遅くなる」のである13。第二に、常任理事国による拒否権の行使により安保理が分裂した場合、北大西洋条約機構(NATO)によるコソボ空爆が示すように、安保理の承認なしに実行された人道的介入はその法的正当性が問われることになる。こうした教訓を踏まえ誕生したのが、『保護する責任』論である。『保護する責任』において、対象となる人為的暴力はジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪、民族浄化の4つに限定され、国家はこれらの暴力から文民を保護する第一義的責任があると規定されている14。しかし、当該国家がその責任を果たす能力あるいは意思のないことが明白な場合、国際社会は国連憲章第7章に基づいて集団的に行動することができるとされている15。国際社会による介入要件と責任が国際社会に移行する閾値を明確にすることで、人道的介入で生じた2つの政治的課題を解決しようとしたのである。2011年、リビア内戦に際し、安保理は決議1970を採択し、リビア政府は自国民を保護する第一義的責任があることに言及する一方、それに引き続く決議1973において、国連加盟国に対しリビアの一般市民を保護するために「必要なあらゆる手段」を採ることを承認した。最終的に、これら2つの決議を根拠に、米国やNATOは同国に強制的措置として空爆を行ったのである。このようにして、国連や欧米諸国は『文民保護』や『保護する責任』等の規範を発展させることによって、人道支援の軍事化を進めてきたのである。9S/RES/688, 1991.10S/RES/770, 1992.11S/RES/794, 1992.12S/RES/1270, 1999.13 Evans, G., Sahnoun, M.,”‘The Responsibility to Protect,”Foreign Affairs, Vol.81, Iss.6, 2002.14A/RES/60/1, 2005. para.138.15Ibid, para.139.20