ブックタイトル平成27年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

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概要

平成27年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

参加だけでなく、政治的、宗教的、民族的性格の紛争には関与しないことを意味する。そして、「独立」とは、他のあらゆる組織からの干渉を許さず、組織としての自主性を確保することを意味する。これら4つの人道原則を遵守することで人道と軍事・政治を峻別し、自己裁量の余地(いわゆる「人道的空間」)を確保することで、人道機関は活動を維持しうると想定されてきた30。このような立場を「古典派人道主義」あるいは「デュナンの系譜」という。2)新しい人道主義1「新しい人道主義」とはデニス・ダイクズュールとマルクス・モケは、「独立―受託」を縦軸、「公平―連帯」を横軸にした図1を用い、各人道機関の組織戦略を説明しているが、この図は人道主義の系譜を概観する上で有用である31。まず、縦軸が示すのは人道機関とドナー国との距離を表したものである。つまり、ドナー国との距離が遠い(「独立」側)程、人材、物資、資金面での独立性が高く、ドナー国の軍事的・政治的戦略に左右されにくくなることを示している。逆に「受託」側へ寄ると、ドナー国に依存する傾向にあることを示している。一方、横軸は人道機関と紛争当事者との距離を示している。「連帯(Solidarism)」とは、被災者のニーズに応じて支援を行うのではなく、ある特定の被災集団(例えば、和平プロセスに協力的な集団)にだけ人道支援を供与する立場のことである。つまり、「人道」と「政治」は区別すべきではなく、人道支援は紛争が悪化しないように平和活動に配慮しながら展開されるべきであるという立場を採る。このことから、被災者のニーズに基づく支援を基本とするとともに、ドナー国からの軍事的・政治的戦略に左右されないよう組織の独立性を厳格に維持しているICRCのような「古典派人道主義」の立場を採る人道機関は、図1の左上に位置することになる。一方、被災者のニーズとは無関係に、ある特定の被災集団に支援を提供するとともに、ドナー国の軍事的・政治的戦略にも一定の配慮をしながら活動を行っている人道機関は、図の右下側へ位置することになる。例えば、資金面で大きくドナー国に依存する米国系NGOや、各国政府の拠出金に依存し、安保理決議によって活動面に大きな制約を受ける国連人道機関などはそれに当たる。30ロニー・ブローマン著/高橋武智約『人道援助、そのジレンマ「国境なき医師団」の経験から』産業図書、2000年.31Dijkzeul, D., Moke, M.,“Public Communication Strategies of International HumanitarianOrganization,”International Review of the Red Cross, Vol.87, No.860, 2005, pp.673-691.上野友也「新しい人道主義国際管理と統治の手段としての人道支援」第13巻,第1号,2013年,11-20頁.24