ブックタイトル平成27年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

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概要

平成27年度「学校法人日本赤十字学園教育・研究及び奨学金基金」教育・研究事業報告書

2「新しい人道主義」の誕生の背景「新しい人道主義」は、「古典派人道主義」に対する批判から派生している。上野は、英国海外開発研究所のジョアンナ・マクレーの「人道主義は死んだか」という論考の中で示された古典派人道主義に対する4つの批判を紹介している32。第1に、「反帝国主義者(the Anti-imperialists)」からの批判である。反帝国主義者は、上記したルワンダの事例が示すように、支援が紛争当事者の勢力の増強と正当化につながっていることを国際社会は説明していないとする。また、人道主義や人権への言説が選択的でうわべだけのものであり、コソボ紛争に対しては人道支援が速やかに行われたのに対し、ルワンダ内戦では「あまりに少なく、あまりに遅い」支援になってしまったことを批判している33。第2は「現実主義者」からの批判である。現実主義者は、主権国家で発生した人道危機は内政問題であり、その処理は当事国に責任があるため、政治的・経済的権益が関わらない限り、介入する責任は国際社会にはないという立場を採る。実際、紛争が長期化し、欧米諸国の権益があまり関与しないソマリアやダルフール等の紛争に対して大規模な介入が行われる見通しは低い。また、紛争当事者に人道支援が利用されるならば、支援の縮小や撤退は正当化されると主張する34。第3の批判は「古典派開発主義者(Orthodox developmentalists)」である。古典派開発主義者は、大量に投入される人道支援物資がホスト国の市場をゆがめるとともに、その無償性ゆえに被災者の援助への依存心を生み、地域の能力向上を阻害すると批判する。また、人道支援が紛争によって生じた人道危機という「症状」に対症療法的に対応するだけで、紛争の根源的原因の解決に取り組んでいないことを批判する35。第4の批判は「新平和主義者(Neo-peaceniks)」である。新平和主義者は主に紛争解決を専門とするNGOやそのパートナーとなっている開発支援機関で活動している。古典派開発主義者と同様、新平和主義者は、人道機関が紛争の根源的原因に焦点を当てていない点を批判し、「救援と開発の連続性(relief-development continuum)」の重要性を強調する点で一致する。上記した「早期復興」という概念は、両者の主張が色濃く反映されたものと捉えることができる。しかし、前者と異なり、後者はより積極的に人道支援の制度改革を要求し、人道支援が紛争を悪化させているとしたら、平和を促進するような方法に改革すべきであるというのである。その代表的論者が、”Do No Harm”の提唱者であるアンダーソンである。彼女は綿密な現地調32同上.33Macrae, J.,“The Death of Humanitarianism?: An Anatomy of the Attack,”Disasters, Vol.22,No.4, 1998, pp.309-317.34上野前掲31.35同上.26